約束のエンゲージリング
するりと手からすり抜けるような感覚に恐怖を覚えつい手を伸ばせば、自ら駆け寄ってきてくれた彼女。
彼女が知るよしもない過去のトラウマをまるで知っているかのような言葉。
〝妹としてずっと側にいる〟
その一言にどれだけ安堵したかなんて君は知らないだろう。
俺はいつか終わりが来る関係じゃなくて兄妹という永遠に終わらない関係を選んだんだ。
自分は情けないくらいに子供でそんな自分を君はすんなりと受け入れてくれた。
まだ泣いて罵倒してくれれば良かったのに、俺の為に笑う君はあまりにも綺麗でそれが更に自分を惨めにした。
この25年間という長い時間の中、俺なんかよりいい男は星の数ほどいただろうに。
それなのにこんなどうしようもない男を想い続けた彼女の25年間を思うと居た堪れない。
だから孝が言うように今まで通りに接するのが1番いい事だと分かっている。
優しい彼女に俺の出来る唯一の罪滅ぼし。
千佳は俺が望んだ〝妹〟になろうとしてくれたのに〝マサ兄〟と呼ばれた瞬間、矛盾しているがそれを受け入れたくないと思ってしまった。
どれだけ彼女が想ってくれても、それに応える事は出来ないというのに。