ブラック研究室からドロップアウトしたら異世界で男装薬師になりました
キーン家の屋敷に、朝日が注いでいる。私は父のタイを締めながら言った。
「いよいよ今日で退官ですね、父様」
「ああ。明日から頼むぞ、リナ」
「その名で呼ぶのはやめてください」
「ああ、すまないな。つい癖で」
父の名はドナルド・キーン。キーン家の当主だ。穏やかな人格者で、私が信頼する数少ない男性である。父は私の格好を眺めた。
「しかし、家にいる間は男装する必要はないのでは?」
私は本日も男装姿だった。のりのきいたシャツに紺のベストを羽織り、下は茶色のパンタロンだ。彼はシャツの襟を立てる。
「この格好に慣れているのです」
「薬師も女性を登用すればいいのにね。最近では女性もいろいろな職についているのだから」
父のような人間は少数派だ。私は肩をすくめた。
「少なくとも、サンダース国王の代では無理かと」
王宮で女性がつける職業は限られている。その代表は侍女。魔法騎士の一部に女性が存在しているが、重要な役職にはまずつけない。
専門知識を有する医師や薬師は、女性の登用を禁じられていた。男のふりをしなければ、私は薬師にはなれない。
それに、王宮には貴族の子息が多くいる。貞操を守るにも、この格好は有効だ。先日のパーティーを思い出し、私は眉を寄せた。プラチナブロンドの髪、アクアマリンの瞳。
あの男、どこかの貴族だとは思うけど、私のことをべらべら言いふらしてはいないでしょうね……。
そう思っていたら、居間の扉が開き、長身の美女が現れた。
「いよいよ今日で退官ですね、父様」
「ああ。明日から頼むぞ、リナ」
「その名で呼ぶのはやめてください」
「ああ、すまないな。つい癖で」
父の名はドナルド・キーン。キーン家の当主だ。穏やかな人格者で、私が信頼する数少ない男性である。父は私の格好を眺めた。
「しかし、家にいる間は男装する必要はないのでは?」
私は本日も男装姿だった。のりのきいたシャツに紺のベストを羽織り、下は茶色のパンタロンだ。彼はシャツの襟を立てる。
「この格好に慣れているのです」
「薬師も女性を登用すればいいのにね。最近では女性もいろいろな職についているのだから」
父のような人間は少数派だ。私は肩をすくめた。
「少なくとも、サンダース国王の代では無理かと」
王宮で女性がつける職業は限られている。その代表は侍女。魔法騎士の一部に女性が存在しているが、重要な役職にはまずつけない。
専門知識を有する医師や薬師は、女性の登用を禁じられていた。男のふりをしなければ、私は薬師にはなれない。
それに、王宮には貴族の子息が多くいる。貞操を守るにも、この格好は有効だ。先日のパーティーを思い出し、私は眉を寄せた。プラチナブロンドの髪、アクアマリンの瞳。
あの男、どこかの貴族だとは思うけど、私のことをべらべら言いふらしてはいないでしょうね……。
そう思っていたら、居間の扉が開き、長身の美女が現れた。