ブラック研究室からドロップアウトしたら異世界で男装薬師になりました
 私とダンスをしていた令嬢、アナが頬を染め、手を引く。私は彼女と共にバルコニーへ向かった。バルコニーから、打ち上がる花火を眺める。色とりどりの花火が上がるたび、ため息のような歓声が漏れた。
 赤や橙、桃色。色とりどりの花火は美しい。あれは、薬師の作った薬品で色を変えているのだろう。
 円形の花火は、時折形を変える。星形や花形、ハート形。植え込みのあたりにいる魔術師が魔法をかけているはずだ。
 この世界は魔法でできている。私が生まれ変わる前に暮らしていた世界とはまるで違う。魔法を使えばなんだってできる。魔法を見るのは好きだ。前世の記憶よりずっと夢がある。人々に交じって花火を鑑賞していたそのとき、誰かが叫んだ。
「きゃーっ」
 周りがざわついて、叫び声が聞こえたあたりにばっと輪ができる。
「なにごとだ?」
「男爵令嬢がいきなりお倒れになったのよ」
 その言葉に、私はハッとした。
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