Legal office(法律事務所)に恋の罠 *番外編~ジェラシーは内密に~
翌日、和奏は時間通りに出勤していた。

「和奏・・・」

「昨日は電話を取れずに申し訳ありませんでした。SNSのメッセージも今朝まで気づかなくて・・・」

そう言って頭を下げた和奏の表情は固く、顔色も良くない。

「体調が悪いのか・・・?」

「いえ、個人的なことですから心配なさらないで下さい」

そう言うと、和奏は背を向けて莉音からもらったカンパニュラに水をやる。

紫の可憐な花を見て、一瞬口角が上がった気がしたが、すぐに元のアイアンフェイスに戻っていた。

まるで、この弁護士執務室に奏がいないかのように振る舞う和奏。

「まだ、何か?」

「いや、9時45分頃に迎えに来るよ」

奏の申し出に首を振る和奏。

「今日はいくつか面談が入っていますし、ギリギリまで仕事になるかと思います。だから応接室には一人で向かいます。それまで、パーティションはクローズにさせていただきますね」

スーツのポケットからフレームレスの眼鏡を出して、アイアンフェイスを完成させた和奏は、そう言うとパソコン画面を見つめながら、リモコンを操作してパーティションを透明なものからスモークガラスに変えてしまった。

"とりつく島もない"

というのは、こういう状態をいうのだろう。

奏は、内線電話で誰かと話始めた和奏を横目で見ながらそっと執務室を退室した。

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