Legal office(法律事務所)に恋の罠 *番外編~ジェラシーは内密に~
会場に戻ると、ファン氏のためにピアノとバイオリンの演奏が行われていた。

ホテル自慢の料理も振る舞われ、歓談の時を迎える。

「おお、戻ってきたか。話があるからこっちに来なさい」

ファン氏はSPに命じて人払いをし、一旦、会場を離席すると伝えた。

会場の隣のファン氏専用の控え室には、バーカウンターだけでなく、食事や歓談ができるテーブルも設置されている。

「紫織から聞いたかな?実は紫織は恋愛対象として和奏に好意を抱いている。紫織の話だと、和奏も男嫌いで、男性からの依頼は頑なに拒否していたと聞いているが、無理して奏と婚約したのではないかな?」

ファン氏の言葉に、和奏は首を振る。

「いいえ、それはありません。紫織さんとは4年前の離婚訴訟の時からの付き合いですが、私は一度もレズビアンだと告げたことはありません」

ハッキリとした和奏の言葉に、奏はホッと安堵の息をついた。

「私はLGBTに偏見はありませんし、むしろ個人の感情を尊重してクライアントにも接してきたつもりです。男性から受けたトラウマを乗り越える過程で、紫織さんが女性を愛するようになったことも自然な流れです。ですが、それと私のこととは別の話ではないですか?」

毅然としてファン氏に言い返す和奏は凛として格好いい。

「そうか、それなら奏くんから攻めていこう。私の娘、紫織のために和奏さんと別れてくれないか?」

正面からのファン氏の攻撃に、奏は目を見張ったが、

「いいえ、私は和奏以外の女性は愛せませんし、彼女を失うのなら、Hotel Blooming 東京を守り通しても意味がない」

と即答した。

ファン氏は、フッと笑って

「君だって本当は、女性として妹の莉音を愛しているのではなかったのか?私なら他の国で、合法的に君達を結婚させることもできるんだよ」

と言った。

どうしたらそんな誤解が生じるのだろうか?

確かに奏は、シスコン気味で、ここ数年は見合いも断り、女性との付き合いもなかった。

「妹との愛を隠すために、和奏を犠牲にするのは許さない。どうだい?悪い申し出ではなかろう?」


ニヤニヤするファン氏と紫織に、最早、言葉を失ってしまう。

・・・・・。

奏は、意を決して行動に出ることにした。


< 24 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop