届け、この想い~先生と私とチューリップ~
すぐ近くにある、その手に、触れたいと何度も思った。


ぶつかりそうな距離にある手。


私が、手を伸ばせば……掴もうとすれば、届く。




男の人にしては、綺麗な指、綺麗な爪の形、暖かそうな大きな手……。



「先生は、どうして先生になったの?」



「んー。勉強でも、スポーツでも、子供たちの人生の勉強でも……何かを助けて、成長を見守りたかった。何も出来なくても、その子達が大人になって、何十年も経ったとき、こんなアホな教師が居たなって。アイツのせいで、学校とか勉強とか、少し楽しかったなって。思ってもらいたいな。何も、出来なくても。ね……」



深い……



先生の想い、考え、愛は

深いよ……。




「先生は、何も出来てなくないよ。少なくとも、私は先生に、いっぱい助けられてる……」


「そんな、真面目に言われると照れるだろーが!!」


先生は両手をズボンのポケットに入れ、空を見上げた。


この仕草も先生の、癖……。


「そんな嬉しい事を言う子には、ご褒美をあげなきゃね」


はい、と先生は左手を出した。


何も乗ってない

大きな手のひら……。


「はい?」


「手だよ、手」


先生の左手に、私の右手を乗せると、ぎゅっと握られた……。


その瞬間、私の心臓は飛び上がった。


「アハハ。人と手を繋ぐのなんていつぶりだろうな!」


幼稚園生みたいに、ブンブンと腕を振る先生も私の思い出BOXに保存……。



大きな手は、私の手を包む。


この幸せ、夢じゃない……よね。


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