届け、この想い~先生と私とチューリップ~
「うわぁ、星が綺麗……」


真っ暗な世界に散りばめられたダイアモンド。


「このサッカー場、市のやつだろ?休みの日にでも来ようかな」


ポツリと呟いた言葉にも、私のセンサーは反応する



お弁当持って、行くね。


彼女だったら、そんな風に言えるのかな……。



「ここで、何年か前、獅子座流星群見たよ」


私の言葉に、先生の顔色が明るくなる。


「まじで!?ここじゃ、見上げると空しかないから、良く見えるだろ?」


先生は、空から私に視線を戻した。



見上げた私と、私を見下ろした先生の顔は、意外にも近かった。


「あ、うん……。お母さんと、まだ小さかった弟と。寒かったけど、連続して流れ星見たんだ」


ドキドキする心臓がバレないよう、ハハっと笑いながら呟いた。


「いいなぁ、俺もここで見たかったなぁ……」





今度は、一緒に見ようよ





そんな言葉は、私には似合わない。


私には、言えない……。


「さ、寄り道しちゃったな。帰ろうか」


ゆっくりと歩き出す先生の手を、本当は、強く引っ張りたかった。


『帰りたくない』


そんな風に言えない私は、ゆっくりと足を前に出した。




「お母様、どうもすみませんでした。じゃあな、また明日」


きちんと母に挨拶する先生もかっこいい……。


家の前で離された手。


もう少し……という、私の願いは、神様には届かなかった。


家に着いて、急いで2階に上がり帰っていく先生を、窓からこっそり見た。


ズボンのポケットに両手を入れて「あー!!腹減ったなぁ」なんて、独り言を言う先生。


「独り言、聞こえてるよ……」


小さく呟き、まだ熱を持ったままの右手を、ぎゅっと握った……。




思い出される、先生の手の温もり。


笑い声。


息遣い。


笑顔。




こんなにも、苦しくて、切ない。


それなのに、いつも考えるのは先生のこと。


そればかりで……。


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