届け、この想い~先生と私とチューリップ~
「お邪魔しまーす」


デパートで買った手作りキットを持ち、祝日の午後、沙織の家に行った。


「いらっしゃい。いいチョコ作ってね」


沙織ママは、にっこり笑った。


「はいっ!キッチン、お借りします!!」





沙織とキッチンに立ち、チョコを出す。


チョコ好きな私にとって、このまま、このチョコをかじりたい。

そんな衝動に駆られた。





チョコを刻んで

湯煎で溶かして……。


甘い甘いチョコの香り。


先生の優しい笑顔にリンクする甘い香り……。




「チョコを混ぜる時は、好きな人を思って、好きな気持ちの分、優しくかき混ぜるんだよ」


沙織ママが、リビングでコーヒーを飲みながら言った。




好きな人を思って、好きな気持ちの分 混ぜる。


このチョコに、私の精一杯の気持ちを込める。



「そんな事言ったら、杏はずっとかき混ぜるよ?」


沙織は笑う。



確かに……。

いつまでも いつまでも

グルグル……。



私と同じように

恋する女の子が

この日本のどこかで

好きな人を想って

チョコレートを混ぜる……。




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