届け、この想い~先生と私とチューリップ~
ドキドキする胸を押さえ、深呼吸をする……。


「失礼します」


教科室には、先生1人。



先生は、目を細めて優しく笑う。


「なに用じゃ?」


ずるいよ、先生は……。









「失礼しました……」

私は、数学教科室のドアを閉めた。



私なんか、作る時から緊張して、夕べも眠れなくて、今だってドキドキしすぎて倒れそうなのに……。



そんなに……大人の余裕ってやつですか?





「おいおい、待てって」

開いたドアから、長くて大好きな腕が伸び、その隙に、先生の腕の下から部屋に滑り込んだ。



悔しくて、恥ずかしくて、素っ気なく「あげるよ」なんて……。


もっと、可愛い事言えたら良かったのに。


「お、さんきゅー」


そう言って、私の頭を撫でた先生の机の下には、紙袋いっぱいのチョコの箱が見えた……。




そんなに貰ったんだ……。


先生は人気あるもんね。




『佐伯先生へ

長沢 美和子より』

と書かれたピンクの箱もあった。



私のチョコも、そこに仲間入りだね。



そんなに大きな袋で持って帰ったら、彼女ヤキモチ妬かない?


でも、彼女のチョコレートが1番だよね……。



悲しいような、寂しいような、私の中で、正体不明のモヤモヤは確実に成長している。


「じゃーね、つよぽん!!」

照れ隠しに、先生の背中をバチンと叩いた。


「こら!大先生だろ!!」



そんな声を聞きながら、教科室を飛び出し、昇降口まで走った……。



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