届け、この想い~先生と私とチューリップ~

ホワイトデー

それから、先生とは2人で会わなかった。


授業中も、目が合うのは一瞬だけ。


先生の瞳は、すぐに違う場所を写す。


沙織も、先輩に渡して告白をした。


「返事は、ホワイトデーに」って言われたんだって。


2人で手を握り合う。


怖い……。


関係が壊れてしまうのが、怖い。


3月13日の夜は、2人とも眠れない夜を過ごした。






「数学の問題集返します」


また提出してあった問題集を受け取る。


今回は、何も書かなかった。


なのに、問題集のページから黄緑色の付箋が、はみ出ていた。



『放課後、来てください』



なんで……なんでよ。


あんなの、子供の勘違いだって思えばいいじゃん……。


私の告白なんか、本気にしないでよ。


彼女いるのも分かってるもん。


冗談だろ?って笑ってよ……。






放課後、沙織は屋上に。

私は、数学教科室に……。


震える指先を、手の平におさめ、ぎゅっと強く握った。


ドアを6回……。



“ご め ん な さ い”



「どーぞー」


いつもの優しい、先生の声。


授業中は、少し高い声。


普通に話すときは、低くて……。


その声を聞けるのは、いつまでだろう……。


「失礼します……」


なかなか、先生の顔が見られず俯いた。


膝がガクガク震える。


そんな私に気付かず、先生は、紙袋を差し出した。



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