届け、この想い~先生と私とチューリップ~

先生からの卒業

最後の挨拶……。


先生は、いつものPUMAのジャージではなく、私の好きなグレーのスーツだった。


先生は、受け持ったクラスを1つ1つ回っていた。


グレーのスーツを、ビシッと着こなした先生。


チェック柄のネクタイも、整髪剤を付けない、サラサラの髪も、先生のすべてが、先生の空気すべてがいつもより、かっこよく見えた。



だから、寂しそうな笑顔も、気付かないふりをした……。



「では、お別れの挨拶を……」



先生の一言で、何人かの女子は涙をこぼした。




私は、私は

泣かないよ……。



先生に、最後に

1番いい笑顔を見せるから……。





「最後は、先生の好きなものをお話したいと思います」


うっすら涙を浮かべる先生に、クラスの男子はわざと笑い声をあげた。


「そーゆーのは、最初の自己紹介にやるもんだろー!!」


「佐伯ちゃん、ついにボケちった?」


「佐伯ちゃんの、数学楽しかったんだから……数学やろう……よ……」


だんだんとその声も小さくなり、教室内は冷たい空気が広がった。


涙目の先生はハハハと笑い、天井を見上げた。





「えーと、俺の好きなものは、まずサッカーな!あとは、花!これでも、実家は花屋なんだぞー」


意外な言葉に、みんな先生を見つめた。


「特に、チューリップ。チューリップはトルコ語の『ターバン』を表してるんだ。昔はなぁ、球根を食用にしてたんだよ。17世紀のヨーロッパ、特にオランダで球根1個と、ビールの工場を交換したらしいぞ!球根と、ビールじゃねぇぞ?工場丸々だぞ?ま、なんの役にも立たないウンチクだけどな」



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