届け、この想い~先生と私とチューリップ~
「こう寒いとさ、コーヒー飲みたくてねー。あ、教頭に買い食いだって、チクるなよ!じゃあ、気をつけて帰れ。それから、これからも頑張れよ。いつか、お前が忘れた頃、白いチューリップ送ってやるよ」


ハハハと笑う先生は、私の頭を、優しく撫でた。



大きな手

暖かい手

柔らかい手





もう二度と触れられない先生の手を、私の中に、しっかりと記憶させるように、頭に乗った手に自分の手を乗せた。


「先生の手……暖かいね」

「そぉか?」


「きっと私は、この手を忘れない」


どこかで聞いた台詞だな、と先生は笑い、もう一度、優しく頭を撫でた。


「俺の生徒1号さん、ありがとう……。お前なら、頑張れるよな」


「うん!私、強い子だから。先生……バイバイ!」


先生は、もう笑わなかった。


声が震えてたかもしれない。

私が泣きそうなことに、気付いたのかもしれない。


「だよな。それは、俺も知ってる」なんて、優しく笑うんだもん……。


そんな時ばっかり、大人の余裕。


ずるいよ……。


私は、こみ上げてくるものを堪え、とびっきりの笑顔を見せ、手を振りながら、走ってその場を去った。



そして、もう1つ先生のことを知れた。


文化祭の前に、先生の車で聴いた洋楽は、FMラジオから流れていたのではなかった……。


曲の最後から、また最初に戻った。


先生は、あの曲を、毎日聴いてたんだ。


エンドレス・ラヴ……。


先生は、彼女との、永遠の愛を約束したのかもしれない……。


微かに聞こえたエンドレス・ラヴに、私の心は、きゅっと締め付けられた。


先生から彼女への愛は、子供の私には何も出来ないくらい大きいんだ……。

熱いんだ……。



深いんだ……。



少し走った所で、先生の声が聞こえた。




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