似非王子と欠陥令嬢
アグネス嬢の視線の先を見ると白い軍服に紅いマントを纏った公式仕様の装いをしたルシウスが歩いていた。

そこには何ら笑う箇所等ない。

ルシウスが歩く度に揺れる白金色の髪の隙間からブラックダイヤモンドを使用したピアスが覗いている事を除けば。

キャロルは項垂れ真後ろにいたクリスは両手で顔を覆っている。

終わった。

何もかも終わった。

クリスとキャロルの悪足掻きなど所詮無意味だったのである。

今この瞬間神は死んだのだ。

憐れな仔羊を助けてくれるような神はいなかったのである。

ルシウスが何やら挨拶しているが頭に全く入って来ない。

それよりもアグネス嬢とフワリー嬢の視線が痛い。

キャロルは皆に気付かれない様クリスと共にじわじわと壁際に撤退した。

「…小兄様、どうしましょうか。」

「…やり過ごす以外ないだろ妹。」

「…私この後殿下と踊らなきゃならないらしいんですが。」

「…骨は拾ってやるからな。」

クリスは親指を立てた。

何の慰めにもならない。

ルシウスとは婚約者候補が爵位順に踊る事になっている。

最初がアグネス嬢、次がファンティーヌ嬢という並びだ。

キャロルは4番目らしい。

よく分からないが姉妹でも養子である妹は6番目になると言うから爵位というのは難しい。

いつの間にか3番目のフワリー嬢が終わりキャロルの番になる。

キャロルは憎悪や怒りを込めた目でルシウスを見た。

ルシウスは清々しい位ににこやかに笑う。

舌打ちしそうになりながらルシウスの手を取った。

今夜位は足を思いっきり踏み付けてやっても許されるだろう。

奴の嫌がらせは度を超えているのだから。

背中に手が回され音楽が鳴り始める。

ルシウスがキャロルの耳に口を寄せた。

「もの凄く眉間に皺が寄ってるよ?」

「…。」

キャロルはルシウスを無視して爪先で足を踏み付ける。

「…へえ?
いい度胸だね。」

ルシウスはニヤっと笑うとキャロルの足を踏み返す。

地味に痛い。

キャロルが睨むがルシウスは涼しい顔で笑っている。

「言ったでしょ?
やられたらやり返す主義だって。」

「…そもそも先にやったのは殿下だと思いますが。」

「何をだい?
良く似合ってると思うけど。」

「…分かってるじゃないですか。」

2人は踊りながら隙あらば相手の足を踏み付ける。

新しい競技に変わっていた。
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