似非王子と欠陥令嬢
キャロルはまた新しいワインを受け取ると一息にそれを煽る。

「レオン、小兄様、今夜はとことん付き合って下さいな。」

「おっおう。」

「あのなキャロル、さっきの話なんだがな…。」

「大丈夫ですから。
何となく分かってましたし。」

キャロルは慰めようとするクリスの言葉を遮る。

疎まれていたのはずっと分かっていた事だ。

それにレオンの言う通り今まで開発者として貰った賞を考えれば願い出たらなら一代限りの爵位は貰えるのだから何の問題もない。

自分でも気付いていた事を、分かり切った事実を言われて勝手に傷付いただけなのだ。

アンジェリカの指摘は何も間違っていない。

キャロルがこの場にいる事自体が間違っていただけなのだ。

キャロルはまたワインを煽る。

酔えない。

もっと溺れられる何かが欲しい。

突然レオンが隣でワインを3杯一気に飲み干した。

ふーっと口元を拭いながらキャロルを見る。

「お前が何だろうがよく分かんねえけど俺は友達だからな。
王妃になろうがならまいがそれでも友達だからな。

…だから頼むからそんな顔すんな。」

「どんな顔ですか。」

「全部諦め切った顔。」

「…そんな顔してませんよ。」

「いやしてるね。」

レオンにそう言われ顔に手を当てる。

そんなよく分からん顔をしていたのだろうか。

自分では全く分からないが。

「まっいいよ。
今夜は飲もうぜ。
ほら見ろ、月も綺麗だ。
月見酒と洒落こもう。」

「…私もしかして口説かれてます?」

「はあ?
…あぁ月が綺麗ってやつな。
俺はあんな危ない事言わねえよ。」

「危ない事ですか?」

「だってあれ返事が確か何か怖かったろ。
死んでもいいわだっけ?」

「あーなんかそんなのありましたね。」

「確か断る時は待宵草が咲いてますとかだよな?
俺この前言われたもん。」

クリスの言葉にキャロルとレオンが固まる。

「…えっ何この空気。」

「小兄様、まじで月が綺麗なんて言葉で口説いたんですか?」

「クリス殿…さすがにダセえよ……。」

「違うぞ!
断じて違うぞ!
この前の部署の飲み会の帰りに月が綺麗だったから普通にそう言ったら待宵草が咲いてますねって返って来ただけだ!」

「世間話しててふられるって辛いな…。」

「小兄様もほら飲んで下さい。
モテないのは分かりましたから。」
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