似非王子と欠陥令嬢
船はどこまでも深く河を下っていく。

次第にキャロルは息苦しさを覚え始めていた。

最初は胃のムカつき程度だった不快感は今では胸を掻き毟りたくなる程苦しくて堪らない。

ルシウスも同じなのか顔は青ざめ頬を汗が流れている。

洞窟内は肌寒い位に涼しい為暑さによる汗ではなく冷や汗であると分かる。

だがレオンやリアムや毛玉はそんな2人を見て混乱した様な表情を浮かべていた。

彼らはこの苦しさを全く感じていないらしい。

なんで自分達だけ、理不尽だと言いたいが口を開けば戻してしまいそうでそれさえも叶わない。

体の内側からどんどん凍り付いていく様な悪寒が酷い。

無意識に体が震え抑えようと自分の体を抱き締める。

寒い。

痛い。

苦しい。

怖い。

負の感情に襲われている様な状況の中、船が河岸に止まり到着を告げる。

レオンとリアムにそれぞれ抱えられながら船から転がり落ちる。

一体この差は何なんだ。

何故2人は平気なんだ。

ルシウスも立っているのが限界なのか歩く事が出来ない様だ。

「おっおい大丈夫かキャロル?」

レオンが毛玉を抱えながら心配そうにキャロルの背中を擦る。

答えようにも吐いてしまいそうでキャロルは大丈夫だと黙って首を縦に振った。

ここまで来て無理などと言えるはずがない。

ルシウスも肩を貸そうとしているリアムに手を振って断っていた。

奴も吐きそうで喋れないのだろう。

気力を奮い立たせ周囲を見渡す。

石造りの太い柱で組まれた神殿の様な古い建造物が遠くに見える。

振り返ってカロンを見るとカロンも神殿の方に顔を向けていた。

あちらに行けと言う事だろう。

レオンに捕まりながら立ち上がり無理矢理足を前に出す。

1歩踏み出す毎に背中に石を積まれていく様だ。

体が重くて堪らない。

気を抜けばすぐにでも崩れ落ちてしまうだろう。

「まじで二人共どうしちゃったんだよ…。」

レオンの泣きそうな声が頭に響く。

たった300m程であろう距離が途方も無く遠い。

ルシウスのシャツも背中部分が汗で濡れて肌に張り付いている。

空気がやけに薄い。

まるで水に溺れているかの様に息が出来ない。

神殿の4段の階段の前でとうとう膝を着いてしまう。

無理だ。

体が拒絶しているのだ。

目の前でルシウスも階段の2段目に手を置いたまま足を踏み出せずに胸を抑えている。
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