似非王子と欠陥令嬢
きっとルシウスはキャロルが安全な場所に逃げたとしても怒りはしないだろう。

普段あれだけ面倒な奴だが今キャロルが離れたいと言えば笑う気がするのだ。

いつもの様に全てを隠した顔で。

さすがにそれはキャロルの良心が咎める気がする。

一応友達と言ってしまった以上責任は取らねばなるまい。

「…これは教会に勤める従兄弟から聞いたんですけれど聖女様なかなか変わった性格をしていらっしゃるらしいですわ。」

「変わった性格ですか?」

「よく分からないんですけども兎に角変わっていらっしゃるらしいんですの。
キャロル様は引きこもりですから大丈夫でしょうけれど…もしお会いされる時にはお気を付け下さいましね?」

「はあ…。
まあ分かりました。」

そんなフワリー嬢の心配は1ヵ月後に的中する事になったのである。





「…聖女様の魔術教育の教師ですか?」

キャロルは早朝から塔にやってきた神官の言葉を復唱する。

フワリー嬢との茶会の数日後に聖女降臨という発表があったのは知っているがその姿はまだ見ていない。

そもそも現在の所神官と第二王子とその側近しか会っていないと聞いている。

そんな中、ルシウスという敵対している相手の婚約者候補に講師を頼むとは一体どういう事なのか。

「キャロル様は魔術師会の中でも力量だけならば既に筆頭魔術師の域だと聞き及んでおります。
そして聖女様ともお歳の近い貴女を教師に付けたいというのが王妃様やハリー第二王子様のご意思にございます。
また聖女様も貴女様のお噂をお聞きになり非常に意欲的になっていらっしゃいますので是非お受け頂きたく存じております。」

「…はぁ、そうですか。」

キャロルは王妃様の名前が出た事で裏に何かあると必死で頭を回転させる。

何故わざわざ難があると分かっているキャロルに頼んでくるのか。

魔術師会にはそれこそまともな人格を持った筆頭魔術師だっているのだ。

わざわざキャロルを選ぶ意味が歳が近いからなど到底納得出来る物ではない。

そもそもキャロルには光魔術に関する知識などない。

むしろ聖女様の解剖と研究をさせて欲しい位なのだ。


なぜだ。

自分を王妃様が選んだ理由はなんだ。

キャロルが悩んでいると神官は押し切る様に続ける。

「相性もございますのでとりあえず本日昼の2時にお迎えに上がります。
ご挨拶だけでもお願い致しますね。」

神官の扉を閉める音がやけに響きまるで嵐の前触れの様な気がした。
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