似非王子と欠陥令嬢
夜会開始直後にキャロルと目が合った彩花嬢は明らかに目を背けていた。

顔を見るのも嫌なのか、キャロルと関わるなと言われているのか。

どちらにしてもキャロルは挨拶に行かない方が良いだろうと考えたのだ。

既に大勢の貴族に囲まれているしキャロルが挨拶に行っても迷惑するだけだろう。

「…何かございましたの?
その、魔道具で虐めたとか…。」

「してませんよ。
アグネス様は私を何だと思ってるんですか。」

キャロルの言葉にアグネス嬢はごめんなさいと返すが目がまだ疑っている。

キャロルの信用はとことんまでないらしい。

キャロルはこの話題を変えようと頭を巡らせた。

「そういえばファンティーヌ嬢の派閥の2人がハリー第二王子様につこうとしてるみたいですけどファンティーヌ嬢の派閥って今事実上1人なんですか?」

「あら?
キャロル様ご存知ありませんの?」

「ん?
何をですか?」

アグネス嬢が身を少しだけ屈めてキャロルの耳に口を寄せる。

「…ファンティーヌ嬢は一足先に体を壊されたからと候補を辞退なさって領地に帰られたのですわ。」

「…は?」

初耳である。

まさか相手派閥のトップが既にいないとは目から鱗だ。

「えっ何時の間に?」

「聖女様降臨の発表の後すぐですわ。」

「まじですか?」

「本当ですわよ。
ハリー第二王子様が優勢になられた事で次期王妃の話が立ち消えるかもと知った途端お身体を壊されたみたいですわ。」

「うわー…。
凄いですね…。」

「まあでも私ファンティーヌ嬢には怒っておりませんのよ?」

キャロルは首を傾げる。

掌返しが大嫌いなフェアプレーの精神に満ち溢れたアグネス嬢らしくない。

「何故ですか?」

「だってファンティーヌ嬢はジゼル嬢やアンジェリカ嬢と違って殿下と婚姻を結びたいという態度があまり見られませんでしたもの。
あれだけ顔合わせの時には意気込んでいらっしゃいましたのにおかしいでしょう?
よく調べてみたらお父様であるアルバ公爵様に逆らえず候補になっただけで本当は領地の方にずっとお慕いされている殿方がいらっしゃったみたいですわ。
だからこの機会を逃したくなかったのでしょうね。
ですから怒れませんわよ。」

「はーなるほど。
なかなか複雑なんですねえ。」

確かにジゼル嬢やアンジェリカ嬢の嫌がらせの話は聞いていたがファンティーヌ嬢の話は聞いていない。

最初からやる気がなかったのだろう。
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