似非王子と欠陥令嬢
「…もうここで降りません?」

キャロルは馬車の窓枠に頬杖を付きながらレオンに声をかけた。

学園まで歩けば15分もかからないであろう場所でかれこれ30分は待っている。

他の馬車も王室の馬車だからと道を開けようとしてくれたのだが混雑しすぎてどうにもならない状態だ。

「そうだなあ…。
もう降りていいんじゃないか殿下?」

レオンがルシウスに尋ねるがルシウスは困ったように笑っている。

キャロルの横に座っているアンジェリカが露骨に嫌な顔をしたせいだろう。

我が妹は余程歩きたくないらしい。

向かいに座っているアグネス嬢も扇子で口元を隠しているが目でアンジェリカを睨み付けている。

このままでは初日から遅刻だ。

キャロルは窓の外の動かない景色を眺めながら溜息をついた。

明日からは1人で歩いた方が良さそうだ。

「まあ今日は新入生は入寮もございますからこの混雑は仕方ありませんわ。
明日からはスムーズに行きますからご安心下さいませ。」

「入寮?
寮があるんですか?」

取りなすように話すアグネス嬢の言葉にキャロルは首を傾げる。

寮の話などを聞いていない。

「そもそも王立学園は本来全寮制でございますのよ?
けれど殿下は執務も御座いますし寮に入ってしまわれては学園に通われていないフワリー様達と交流出来ませんでしょう。
ですから公平を期すために殿下の15歳の婚約者決定までは候補者達も離宮から通う事になっておりますのよ。
そこでお選び頂けなければ来年からは私も入寮致しますわ。」

「はー、そうなんですか。」

「ただキャロル様はお手付きで御座いますから婚約者がどなたであろうと離宮から登校になりますわね。」

アグネス嬢の言葉に隣から鋭い視線を感じる。

我が妹はキャロルがお手付きという事に大層お怒りらしい。

でもお前はハリー第二王子の側近に狙いを変えたんじゃなかったのかとキャロルは言いたい。

空気を読んで口には出さないが。

「でもこれヤバいんじゃないか?
アグネス嬢は生徒会の役員で入学式の仕事があるんだろ?
殿下も代表の挨拶があるし…。
まじで間に合わねえぞ。」

レオンの言葉にアグネス嬢とルシウスは目を床に落とした。

二人共実はかなり焦っているのだろう。

妹が歩くと言えば解決する話なのだが。

時計を眺めていたリアムも眉間に皺を寄せている。


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