似非王子と欠陥令嬢
「でねでね、なんか急に選択講義も魔術を選んで良いって言い出したんだよ!
何かあったと思わない?」

昼休みのテラスで彩花嬢が力説している。

「さあ?
まあ良かったじゃありませんか。
選択講義で教えて貰える魔術は上級者向けの物や彩花様の光魔術の様な特殊な物まで多岐に渡りますから。」

「うん!
すっごい楽しみなんだ!」

彩花嬢は頬を抑えニコニコと笑う。

キャロルはハーブティーに口を付けながら本を捲った。

「しかもね、婚約破棄とかは認められないけどルシウス君と仲良くなるのは構わないって言われたんだよ。
やっぱり何かおかしいでしょ?」

「殿下が危険じゃないと判断したんじゃないですか?
仲良くなさりたいのでしょう?
素直に受け取れば良いではないですか。」

直接接する事で自分で判断出来たのだろう。

あの弟は本当に素直な人物だ。

キャロルはボロボロと泣いていた顔を思い出してふっと目元を和らげる。

「うーんでもね、やっぱりキャロルさんとはあんまり仲良くするなって言われちゃったんだ。
絶対キャロルさん何か知ってるでしょ。」

「…あの糞ガキ。」

「キャロルさん?」

「いえ、先日少し会話しただけですよ。
余計に嫌われたのかもしれませんね。」

「キャロルさん虐めたんでしょ。
ダメだよ歳下には優しくしなきゃ。」

「躾のなってない糞ガキには厳しくがモットーですので。」

キャロルのボヤきに聖女がケラケラと笑う。

「多分キャロルさんの方がよっぽど気合いの入った糞ガキだと思うけど。
強い分厄介だと思うなあ。」

「失礼な。
私だって力加減は考えますよ。
本気で殺るとしたら殿下位です。」

「いやいや。
ルシウス君が1番しちゃダメな相手でしょ。
でも性格のおかしい糞ガキでもあたしはキャロルさん大好きだよ。」

「…貶す割合と褒める割合が9対1ってどうなんですかね。
ツンデレでももう少し割合あると思いますよ。」

キャロルの苦情にごめんと軽く謝りながら彩花嬢が優しく笑う。

「ねえキャロルさん。」

「はい?」

「あたし今ね、すっごく色んな事が楽しみだよ。
この世界が好きになれそうな気がするんだ!」

「…そりゃ良かった。」

「うん!
ありがとうキャロルさん!」

彩花嬢の笑顔に陰りは見えない。

「…だから私は何もしてませんってば。」

キャロルはそう言いながらまた紅茶に口を付けた。

いつもより美味しく感じたのはきっと気の所為だ。
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