似非王子と欠陥令嬢
アイラ・ワインストは、母親は操られていたのだ。

王妃の使った魔術師によって。

知らない間に唇を噛み締めていたのか口の中に血の味が広がる。

今までずっと母親を憎み母親に憎まれていたのだと思っていたのだ。

それが操られていたと知ってキャロルはどうしたら良いのか分からない。

沸くのは憎悪だけだ。

殺したい程に憎い。

バラバラに引き裂いてやりたいと思う程に憎くて堪らないのだ。

なのに証拠がなくて何も出来ない。

自分の無力さに絶望さえ感じる。

エバンネ王妃の指示した証拠さえあれば。

もしくは行った魔術師さえ分かれば誰の指示か調べる事も出来るのに。

キャロルは羊皮紙を壁に叩き付けた。

真実など分かった所で何の役にもたたないなんて。

怒りに任せて壁を殴ろうと拳を振り上げる。

「…落ち着いてキャロル。」

力を込めて振り上げた手首を捕まれる。

「…離して下さい。」

手首を掴んだルシウスがキャロルの拳を見た。

一昨日から何度も繰り返していたからか拳は腫れ上がり血が滲んでいる。

「…情けないですよね。
ずっと罪のない母親や魔力暴走を恐れて冷たくなった家族を憎んで。
そりゃ冷たくなって当然だったんですよ。
ただ操られていただけの母を殺したんですから。」

「…キャロルのせいじゃないよ。
キャロルだって悪くない。」

「ーっじゃあ私は誰を憎めば良いんですか!?」

キャロルはルシウスに体を向け吼える。

蝋燭の明かりで映るキャロルの瞳は怒りで燃えていた。

漆黒の瞳は憎悪に塗れ光は見えない。

「王妃は証拠がなくて憎む事さえ許されない!!
魔術師は分からない!!!
じゃあ私は誰を憎めば良いんですか!!!
誰に怒りを向けたら良いんですか!!!!
結局呪いの解き方も分からないまま!!
全て呑み込んで死ねと殿下は言うんですか!!」

「そんな事はない!!」

「状況がそれしか許さないでしょう!!!」

キャロルはルシウスの手を振りほどこうと思いっきり腕を引く。

腕はあっさり離れた。

ルシウスは拳を握り締めたまま俯いていた。

「…今もう一度シャルドネ王国の魔術師団の中を王妃の指示した証拠がないか探ってもらってる。
だから諦めないで欲しい。」

「…無理ですよ。
赤達は見逃したりしません。
一度探してなければそこにはないんです。」

「だが」

「終わったんですよ!!
私達は負けたんです!!!

……最初から…無理だったんです…!!」
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