似非王子と欠陥令嬢
「…と、よし書けた。
じゃあ私荷物取ってきたりしなきゃならないんで巫女様も約束通り0時にまたここ、教会の地下に集合して下さい。」

「待ちなさいよ。
何をするのかは言いなさい。」

立ち去ろうとするキャロルの腕を巫女が掴む。

銀色の瞳は真っ直ぐにキャロルを見詰めている。

喋るまで離すつもりはなさそうだ。

「…言わなければ巫女様は罪には問われない。
だから言わないんです。
貴女は私達に脅され立たされただけ。
被害者として扱われます。
…ですから何も聞かないで下さい。」

唇を噛み締めるキャロルを巫女がじっと見る。

巫女が掌を振り上げキャロルの頬に振り下ろす。

鋭い音が静寂に包まれた教会の地下に響いた。

「…馬鹿にしないで頂戴。
あたしは確かに脅されて頷いたけど一度あんた達に命を救われてるの。
恩人が死にそうな顔で協力してくれって言ってきてんのよ。
協力したいと思うに決まってんでしょ。」

叩かれた頬がジンジンと痛む。

叩かれた事など今までなかった。

いつだって皆キャロルを恐れていたから。

「それが何?
聞いたらあたしも共犯になるからって何よそれ。
それ覚悟で頷いたに決まってんでしょ。
じゃなきゃ脅されたって夜が来る前にこの国から逃げれば良いんだから頷いたりしてないわ。
恩人のあんた達を信じて協力してやりたいと思ったから頷いたの。
あたし前に言ったわよね。
あんな未来見たくないって。
あんたが死ねばこの国の未来は終わるの。
そこを理解しなさいよ。
少しは周りを信じて頼りなさい。
あんたを信じてる人間をあんたも信じなさい。」

キャロルはふっと自嘲気味に笑った。

信じるなど愚かだ。

何より自分が一番信じられないのだから。

信じて裏切られる前に信じる事を止めた方がずっと良い。

なのに何故この巫女は自分達を恩人と呼び信じると言えるのだろうか。

そもそもキャロルは何もしていない。

助けたのはルシウスだ。

「…私は別に貴女を助けたりしていません。」

「あんたが静流の遺跡に行こうとしなければ、従者が船を選ばなければ、あんたが夕飯を部屋でとると言って着いて来なければ、あたしはあの時助かってなかったのよ。
あんたの選んだ行動であたしは救われた。
だからあんたの選択をあたしはもう一度信じるって言ってんの。」

「…んなめちゃくちゃな。」

「そんなもんよ人生なんて。」

「…本当にみんな馬鹿すぎるでしょ。」
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