似非王子と欠陥令嬢
「本当に入口まででいいのか?」

レオンがキャロルを支えていた肩を離し心配そうに顔を覗き込む。

キャロルは額から汗を流しながら小さく頷いた。

レオンは溜息をつきながらルシウスの寝室の扉を開ける。

この友人が1度言い出したら聞かない事位レオンだって分かっていた。

「入口にはリアムがいるから何かあったらすぐ呼べよ?」

「…分かりました。」

キャロルは頭を小さく下げて寝室に足を踏み入れる。

毒の影響だろう。

唾を飲む度にえづきそうになってしまう。

麻痺など甘い毒ではなかったのだろう。

明確な殺意に嫌悪感が沸いてくる。

キャロルはレオンが扉を閉めるのを確認し衣装部屋へと足を踏み入れた。

壁に手を付き魔力を流す。

いつかルシウスがそうしていた様に。


キャロルの魔力に反応し隠し通路への扉がゆっくりとその姿を現した。

やはりあれは夢などではなかった。

ルシウスの魔力は今キャロルの中にあるのだ。

キャロルは苦笑いを浮かべながら重い体を引き摺り通路に入る。

何度も来た道だ。

ルシウスと一緒に何度もこの階段を降りた。

意識が霞んでいても足が勝手に動く位何度も何度も歩いた道。

禁書コーナーの1番奥。

いつもルシウスが本を探していた場所。

キャロルは何冊かパラパラと手に取りページを捲る。

血走った目でただただ文字だけを追う。

これも違う。

これも違う。

もう時間がないのだ。

焦りと体調の悪さで目が滑る。

首筋を冷や汗が流れ落ちた。

手の甲でそれを拭う。

キャロルは12冊目に手に取った本に目を通すとそれを懐にしまった。

時渡りの使用に禁書持ち出し。

王妃への反逆。

重罪所か一発で首が吹き飛ぶレベルだ。

子供の悪戯などではもう済まされない。

いや子供の悪戯で済ますつもり等毛頭ないが。

キャロルは禁書を懐に隠したまま通路を進む。

道具は全て手に入った。

あとはそれを使うだけだ。


キャロルは荒い息のままルシウスの衣装部屋に戻る。

傷が開いたのだろう肩に血が滲んで白いシャツを染めている。

急いで塔へ戻ろう。

協議まであまりにも時間が足りない。




「……キャロル・ワインスト嬢か?」
< 277 / 305 >

この作品をシェア

pagetop