似非王子と欠陥令嬢
仕上げとばかりに残りの魔力を流し込んだ。

部屋を暴風が吹き荒れ一瞬目も眩む様な光に包まれる。

レオンは腕で顔を庇った。

吹き飛ばされた書類がレオンの腕を掠める。

どこかで暴風に耐え切れず窓ガラスが割れる音がした。

無我夢中で危機を感じ友の名を叫ぶ。

だが暴風によって叫んだ自分の声さえ聞こえない。




どのくらい経ったのか。

風が止み顔を上げると部屋は悲惨な状況だった。

窓ガラスは全て割れ扉も吹き飛んでいる。

床には飛ばされた家具や書類が散らばる。

もはや爆発でも起きたんじゃないかと言うレベルの荒れようだ。

リアムもその光景に固まっている。

もう国王が来るだろうに言い訳の仕様がない。

そんな部屋の中にキャロルは1人ルシウスに向いたまま立っていた。

「…何があったんだ?」

恐る恐る声をかけるレオンにキャロルが振り返った。

だが何も答えない。

3人でただ見詰め合う。

シュールだ。

「…成功したのか?」

リアムの問い掛けにキャロルはうーんと首を傾げた。

「…分からないんですよね。」

「分からない?」

「今確認する術がないと言いますか…。」

そう言いながらキャロルは閃く。

「…ちょっと殿下を殴っても良いですか?」

「なんで!?」

「いや確認の為。」

「殴らなきゃならない確認って何だよ!?」

そうレオンが怒鳴るとベッドが軋む音がした。

んっ…という微かな寝息も聞こえる。

リアムが慌ててベッドに駆け寄った。

「あっまだちゃんと定着してるか分からないので起こさないで下さいね。」

「…さっきキャロル嬢は殴ろうとしてなかったか?」

「冗談ですよ冗談。」




リアムがルシウスの手を握る。

暖かい。

あれほど死人の様に冷たかったルシウスの手に熱が戻っている。

リアムは力が抜け膝を付いた。

長かった。

この1年何度も冷たい主の手を握り肩を落としてきたのだ。

遠かった。

明日には鼓動が止まっている気がして怖くて堪らなかった。

だが手を握った瞬間分かったのだ。

ルシウスは目覚めると。

また仕える主が戻って来てくれると。

リアムは長い長い息を吐く。

ずっと張り詰めていた糸が切れる様に一筋の涙が頬を伝った。

「…お帰りなさいませ殿下。」



この1年ずっと言いたかった言葉だった。
< 292 / 305 >

この作品をシェア

pagetop