似非王子と欠陥令嬢
10年振りの王宮に対し感慨に耽る暇もなくキャロルはレオンの寝室に運び込まれた。

「えっちょっなんでレオンの部屋??」

「そのローブで見合いなど出来んだろう。
着替えて来い。」

リアムに背中を押されメイドに捕獲されてしまう。

風呂に担ぎ込まれあれよあれよと言う間に全身を洗われてしまう。

かと思えば10年振りのコルセットという地獄を味わいキャロルは疲労感満載であった。

見合いに行ってすらいないが既にもう帰りたい。

お腹が苦しい。

というか今更ルシウスに会って何を話せと言うのだ。

キャロルはルシウスの友と言いながら10年背を向けた人間だ。

今更久しぶりー元気だったー?なんて和やかに会話など出来るはずがない。

しかも今回は見合いだ。

趣味とか今になって聞けと言うのか。

「魔獣が好きなんですか?
奇遇ですね。
私もホーンラビットを飼ってるんですよ。」

などと会話した所で白々しいにも程があるだろう。

そもそも見合いなら前回の候補者を除外するべきではないのか。

10年前ダメだったのだから10年経とうがダメになるに決まっているだろう。

同窓会で意気投合とは違うんだぞとキャロルは声を大にして言いたい。




顔に化粧品を塗りたくられ何がなんだか分からない。

そういえば13歳の時は仕事に追われ適当なドレスを被って参加したはずだ。

それから2年の間とは思えない位濃い時間だった。

毎日何かが起こり時間に追われていた。

息付く暇もなかったが今となって思えばあれが青春と呼べる物だったのだろうと思う。




「さあ出来ましたよキャロル様。」

キャロルは顔を上げて鏡を見る。

貴族らしくない短い黒髪。

だからこそ隠れない胸元にブルーダイヤのネックレスがはっきりと主張していた。

キャロルは苦笑いを浮かべる。

見覚えのあるネックレスだ。

確か神の泪とやらだったか。

これを見て以前は絶望した。

だが今となっては10年前を思い出してどこか懐かしい。

「では参りましょうキャロル様。」

キャロルはゆっくりと足を踏み出す。

場所は13歳の時と変わらず謁見の間。

あの激動の2年間の始まりの場所。

騎士によって扉が音を立てて開かれた。
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