似非王子と欠陥令嬢
「だからキャロル嬢。
君の力でこの寮の子が少しでも楽になれるような魔道具を作ってみてくれないか?
君が今日目で見て肌で感じた必要な物をな。」

リアムにそう言われ今はっきりと規定の意味が分かった気がした。

キャロルはモップの重さなんて、バケツの重さなんて、そもそも魔術が使えないというのがどういう事なのかさえはっきりと分かってなかったのだ。

今ならちゃんと役に立てる物が作れる気がする。

「…頑張ってみます。」

キャロルの返事にリアムが眉を下げた。

彼もあまり表情が代わる訳ではないがよく見ると眉毛で判断出来そうだ。

「そうか。
…楽しみにしてる。」

「上手くいくかは分かりませんが…ありがとうございますリアム様。」

「…期待してるぞ。
筆頭魔術師候補様。」

さあ帰ろうと言われ2人は連れ立って塔に向かう。

「そう言えばレオンがずっと居座ってるんだろ?
開発に手が必要ならコキ使えば良い。
俺も明日も君達のおもり役だろうから何かあれば言ってくれて良い。」

「いやいやそこまでは流石に。」

「手伝ってキャロル嬢が2次選考に行けたり、さらに筆頭魔術師になったなんて事になればこの上ない栄誉だから気にするな。
きっとレオンも喜ぶ。」

リアムがそう言いながらキャロルを見た。

一瞬キャロルの足が止まる。

「…それが絶対有り得ないと分かっていても手伝ってくれますか?」

思わず漏れた言葉にリアムが驚いた顔をしているがキャロル自身も多いに動揺していた。

「絶対に有り得ない…?」

「いやあのその、人格破綻者らしいですからね私。」

動揺を悟られない様に話すが気付かれていないだろうか。

リアムはじっとキャロルの顔を見ていたがようやく目を逸らしてくれる。

「…あぁ手伝うさ。
それからキャロル嬢。」

「ん?
なんですか?」

「…いや、何でもない。」

キャロルは首を捻るがリアムは無言で塔へと足を進めた。

リアムは先程見たキャロルの目が引っかかっていたのだ。

絶対に有り得ないと言った瞬間のキャロルの目は全てに絶望し全てを諦めた人間のそれでしかなかった。

その目をした人間を戦場で何度か目にしたが、全員もうこの世にはいない。

皆自ら命を絶ってでもこの世を捨ててしまったのだ。

一体この少女は何を抱えているのか。

この少女が明日にでも命を絶ってしまうようなそんな気がしてリアムは嫌な予感を頭から追いやった。

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