人魚姫のクリサンセマム
11月29日

04:28

いつ死んでもいいと思っていた。
なんとなく、自分でも不思議なことに覚悟はできていた。

だから……

「きみは、一週間後に死ぬ」

と、言われたところでなにも感じなかった。
むしろ、ようやくあっちの世界にいけるんだと思ったくらいだ。

淡々と言う男の表情は、いまいちよく見えない。

カーテンをしめきっている室内は、真っ暗だ。日が昇ればまた違うのだろうけど、夜明けまではまだ時間がある。

ただ、その声で男なんだということだけはわかった。

たぶん知り合いではないだろう。声に聞き覚えはない。そもそも流花に男の人の知り合いなんてほとんどいない。だから知り合いではないはずだ。

夜と朝のあいだ。
流花ひとりしかいないはずの家のなかで、だれか知らない人。どうやって家にはいってきたのかわからないが、いきなり枕元にたたずんでいて。

でも流花は怖いだとかそういったことは感じなかった。

「僕が、一週間後にきみを殺す」

やや緊張しているのか声に抑揚はなかったが、柔らかい声色だということはわかる。
だからだろう。

いつ死んでもいいと思っていた。
だからだろう。


流花は、この男に殺されてもいいと、思ってしまった。
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