おにぎり【短編】
「ねぇ、そっちが私のでしょ?」
キョトンとする彼は、もう一度剥がし掛けたフィルムを戻して
「ん?間違ってないよ。オレ、昆布だもん」
と言った。
きっと私はその時、困った顔をしたのだろう。
私の返事を待たずに彼が言った。
「昆布が良かったなら、交換するよ」
「うん、じゃあお願い……」
彼は気付かない。
私の中に黒い靄が広がる。
それでも押し殺して会話を続けようと思った。
そんな日もあるじゃないか、そう思いたかったから……
「いつもはそっち食べるじゃない。なんで今日は昆布なの?」