スノードーム
「俺ね、炭酸のジュースが好き。お酒やコーヒーは嫌い。あと犬が好き。多分飼って た気がするんだ。年はね、23歳だと思う」
一人暮らしの家まで連れて帰っているとき、テルさんはよく喋ってくれた。
ネットで調べれば分かることなのだろうが、テルさんは必死に私に情報を伝えようとしてくれた。
私のしていたマフラーをぐるぐる巻きにして、コンビニのそばにいさせて秒でコーラを買い、また家に向かう。
私、何してるんだろう。
自分でも自分の行動がよくわからなかった。
面倒なことは嫌いな性格なのに、今現在進行形で自ら面倒なことに頭を突っ込んでいる。
ただ彼をこのまま放って置けないと、思ってしまった。
「瑞穂ちゃん、しばらく俺と一緒に住んでくれるの?」
「テルさんが嫌じゃなければ」
「……うん、嫌じゃない。俺、瑞穂ちゃんといたい」
出会ったばかりの素性も知らない女によくそんな口説き文句がぽろりと出てくるものだ。
俯いた姿を見るに、口説こうと思っていないことなど分かるけれども。
とりあえずは明日彼らの事務所に連絡しようと決心するのだった。
「どうぞ」
「わ、お邪魔します」
見れば見るほど綺麗な顔をしている。いそいそと部屋に足を踏み入れたテルさんは、興味津々に部屋の中を見渡した。
「先にお風呂はいってください。だいぶ体冷えてると思うので」
「え、でも、服」
「あー、忘れてた。下着類は近くのコンビニで買ってきます。服はとりあえず今日は私のジャージで」
恥ずかしそうにしていたテルさんだが、頷くと大きなくしゃみをしてお風呂場へと向かった。
一人暮らしをしてから湯船に入ったことなかったが、湯を出して後で自分で止めるよう伝える。
なんとなくいってきます、と小声で呟くと、「いってらっしゃい!」と元気な声が帰ってきて嬉しくなってしまった。
男性用の下着を買うのは中々にためらわれたが、そうこう言っている場合でもないのでなるべくなんともない顔でお会計を済ませてしまった。