お試しから始まる恋

 できるだけ頭を落ち着かせて、颯は駅前のロッカーにやって来た。


 305・・・

 そこには鍵がついていた。

 
 呼吸を整えて、颯はロッカーを開けてみた。



 すると、中には封筒が入っていた。


 厚みのある封筒を手にすると、颯は中を見ようとした。


 が・・・


 急に背中に何かを突き付けられる感覚を受け、その手を止めた。


「お前、柳田だな? 」


 低い男の声が聞こえて、颯は顔だけ振り向いた。


 目指し帽にサングラス、黒いジャンパーに黒いズボンに茶系のスニーカー。

 いかにも怪しい格好の男。

 背丈は疾風より少し低めであるが、手にナイフを持っていて、颯の背中に突き付けている。

「そうだけど、お前は? 」


「俺の事は聞く必要ない。その封筒を渡せ」


「これ? 俺が預かったんだ。渡せないね」


 グイっと、ナイフを食い込ませ、男は口元でにやりと笑った。


「お前は自分の立場を分かってないのか? 」


 ナイフが食い込んで、颯はゾクッとした。


「そのまま歩いて、俺に着いて来い! 」


 颯は言われた通り、男についてゆく事にした。




 男は颯を人気のない路地へと誘導した。


 人気のない路地に入ると、男は颯を突き飛ばしてナイフを突きつけた。

「封筒を渡せ! 」

 疾風の喉元にナイフを突きつける男は、異常なくらい殺気立っている。


「この封筒は、そんなに大事な物が入っているのか? 」

「お前に関係ない! さっさと渡せ! 」


 颯は男を睨みつけた。


「渡さないならどうするんだ? 」


 チッと、舌打ちをして男は口を歪ませた。

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