お試しから始まる恋

「お前・・・。相変わらずだな。・・・お前があの時・・・手紙を見ていれば、こんな事には・・・」


 手紙。

 ユキから手紙を受け取ったかどうか、聞かれた事を颯は思い出した。


「ちょっと待て。手紙とは、高校の時の事か? それなら俺は、受け取っていない」



「フン! 受け取らなかったんだろう? そしてゴミ箱に捨てたんだろう? 」

「何言っているんだ? そんな事していない。勘違いしているぞ」

「黙れ! さっさと封筒を渡せ! 」


 シュッ!

 男はナイフを振りかざした。


 ナイフは颯の腕にかすった程度だった。

 袖が少し切れている程度で、怪我には至っていない。



「早く渡せ! 次は確実にやるぞ! 」


 ナイフの先端を颯に向け、男はニヤリと笑いを浮かべた。


 颯は封筒をギュッと胸に抱き、男を睨みつけた。


「これは、警察へ持ってゆく。それが一番だ」

「何だと? 」

「こんな物騒な事される。その原因が、この封筒なら。警察に持ってゆくのが正解だろう? お前に渡しても、何も解決しない! 」

「うるさい! さっさと渡せ! 」


 男は思いきりナイフを振り上げた。



「待ちなさい! そこまでよ! 」


 声がして男は驚いて振り向いた。


 すると・・・


「え? ・・・」


 振り向いた先には冬子がいた。


 いつものようにスーツを着て、かっちりした格好の冬子。

 ベリーショートだった髪が、ショートヘヤーの少し長いくらいまで伸びている姿は、前よりずっと女性らしく魅力的になっていた。


 そんな冬子を見ると、颯はドキっとした。
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