お試しから始まる恋
冬子は連行される男を目で追った。
「あ、あの・・・」
颯が冬子に声をかけた。
冬子はゆっくりと、颯を見た。
「・・・全部、判ってしまったようですね。・・・」
「いや、俺は全く何も判らない。どうゆう事なんだ? 」
冬子は、観念したかのように視線を落とした。
「私は・・・冬子ではありません・・・。冬子の姉、早杉楓子(ふうこ)です」
「楓子・・・? 」
「後日連絡します。今は、先を急ぎますので」
それだけ言うと、冬子こと楓子は去って行った。
颯はただ茫然となるだけだった。
「すみません、ご事情伺いたいので署までご同行願います」
呆然としたまま、颯は他の警察官と一緒にその場を去った。
その後。
警察に逮捕された男は、曽根幹夫(そね・みきお)と言い現在30歳になる会社員だった。
冬子と交際していた男で、冬子の仇を打つために純也と宗次をずっと10年間調べ上げてきた。
冬子は高校2年の時、疾風に手紙を渡そうとした時、純也と宗次に捕まり乱暴され自殺に見せかけ殺されたのだ。
冬子の事が好きで追いかけていた純也と宗次。
しかし、颯に手紙を渡そうとした冬子が許せなくなり2人共犯で冬子を襲った。
怖がって逃げる冬子を2人がかりで襲い、乱暴したあげく、気絶した冬子の手首を切り自殺に見せかけて殺したのだった。
学校側は生徒が混乱するのを防ぐため、この件を内密に収めようとした。
放課後、誰もいない事から目撃者もいなかった。
冬子の両親は、こんな酷い事をされ黙っている事はできないと言っていたが学校側が大金を積んで口を封じようとした。
その時。
冬子の双子の姉である楓子が、誰にも言わずに内緒にする代わりに、冬子として学校に在籍させて欲しいと言い出したのだ。
幸いマスクをつけていた冬子は素顔を知られていない。
双子の楓子は冬子とそっくりであった為、学校側はその条件を呑んだ。