お試しから始まる恋
「貴方は・・・冬子が好きなんですよね? 」
「俺が好きなのは、お前だけ。冬子と名乗るなら、冬子と呼ぶし、楓子と名乗るなら楓子と呼ぶ。名前なんてどうでもいい」
「・・・ごめんなさい・・・。言わなくてはならないと、ずっと後悔していました。・・・だから、電話にも出れなくて、メールも返事ができませんでした。今度お会いした時に、ちゃんと話そうと思って・・・」
フワリと、颯の腕が楓子を包み込んだ。
「もういい。お前が無事でよかった。10年も、よく1人でがんばって来たな。・・・気づいてあげられなくてごめん・・・」
「なに・・・言い出すのですか? ・・・貴方が謝る事なんて・・・」
「何も言わなくていい。もう終わったんだろう? 」
「はい・・・」
「今度の日曜に、お前の家に迎えに行くから。会ってくれるか? 」
返事をしたい楓子だが、喉に張り付いて声にならなかった。
「会ってくれなくても、会いに行く。お前の事、信じているから」
こんなに優しくて、深い愛を持っている人がいたんだ・・・。
楓子は胸がいっぱいになり何も言えなくなった。
その後、颯は父と共に帰って行った。
楓子は取り調べを終えて帰宅できたのは、深夜を回る頃だった。