俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
そのまま冷蔵庫の中身を見ながら、今日の夕飯はなにを作ろうかと考えていると、小さなバイブの音が聞こえてきた。
バッグからスマホを取り出してみると、涼真の名前が表示されている。
「……はい」
一瞬、さっき目にした光景が浮かんで胸が痛んだけれど、振り払って電話に出る。
『おつかれ。よかったら、いまから飯に行かない?』
「仕事は? もういいの?」
仕事、と聞いているけれど、頭にあるのはさきほどの女性のこと。あの子は、もうそばにいないの? なんて、聞けるはずもない。
『さっきまで新野さんとこで打ち合わせしてて、いま終わったとこ。もう帰った? たしか、百音の家から近くないかな、新野さんの事務所って』
「ひと駅だけど……。あ、でも今日はちょっとごめん。もう食べて帰っちゃったから」
電話口から聞こえるのは信号機の誘導音。人の声も聞こえないしひとりで歩いているみたいだけど、なんだか気分が乗らずにウソをついてしまった。
『そっか、残念。じゃ、ひとりで食べて帰るかな。あ、週末は空いてる? 一緒に行きたいところがあるんだ』
「行きたいところ?」
『そ。これ以上は言えない。とりま、空けておいて』
楽しげな声でそう言うと、電話を切った。
こうしてご飯やデートに誘ってくれるということは、ちゃんと好かれているということ。だから、漏れ聞こえてきただけの会話なんて、信じないようにしよう。
涼真だって、上崎さんに“人から聞いた情報より目の前の私を信じる”って言ってくれたし。
なんとかすさんでいた気持ちを取り持つと、ふとあることが頭を過る。
「……あれ? そういえば、誰が上崎さんに根も葉もないウソを言ったんだろう」
すっかり忘れてしまっていたけれど、いつかそのウソを言った人物と涼真が接触してしまったら。そして、涼真がその人の言葉を信じてしまったらと思うと、気になってきた。