俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「ん……」
耳にかすかな声が届き、誰かに呼ばれているのかと目をこする。見上げた天井は白いだけで、いつもあるはずの照明がない。
はっきりしない頭で周りを見渡すと間接照明のほのかな明かりを感じ、寝転んでいるベッドのシーツは自分が洗濯したにしては糊が効きすぎてパリッとしている。
おかしい……ここ、私の部屋じゃない。
「え、まさか……」
まさか。花坂百音(はなさかももね)、二十八歳にしてついに? あの甘い夢はリアルだったのだろうか。
いままで一夜限りの――なんて経験はない。だけど、今日がそのはじめてかもしれない。
夢で見たままのビジネスホテルにいると察し、慌てて起きあがると自分の身なりを確認した。
着ているワンピースに目立った乱れはなく、ストッキングもきちんと履いているので、きっとあの夢のようなことはなかったのだろう。
しかし、なんでこんなところにいるのか記憶がないし、残念ながら相手の顔も覚えていない。
昨日はたしか、同僚に誘われて仕事のあと飲み会へ行った。
場所は均一料金が魅力的な焼鳥のチェーン店で、出会いが目的だったけれど、女性五人に対してスタートから参加していた男性三人は正直いまいちで、心の中で「やっぱりいい男性(ひと)は飲み会に来ないよな」とぼやいた気がする。遅刻してきた人がふたりいて、そのうちのひとりと何杯か飲んだ……までは覚えている。
でも肝心要であるホテルまでの記憶がない。
呑み込めない状況に頭を抱えていると、再び話し声が聞こえてきた。