俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「広瀬さんって、一級建築士も持ってるんですか? すごーい!」
「持ってるだけで、やってるのは照明だけだからね。それより、焼鳥おいしいね」
自分のことはあまり語りたがらないのか、アピールすれば女性たちはもっと食いつくのに話を逸らす。
「……あれ?」
一通り女の子と話すと黙って様子を見ていた私に視線を向け、広瀬さんは箸を加えたまま目を瞬かせて固まった。
「あのさ、どっかで会ったことないかな?」
周りの男性たちは「古い誘い方するなよ」と突っ込み、女性たちはどういう関係かと不思議そうに……ちょっとだけ妬みを交えながら私を見てきた。
「会った……というほどじゃないですけど、今日の昼間ぶつかりました」
「あー、だよね! あの子だ! いやいや、でももっと前に会ってる気がするんだよね」
ビールと料理が取り分けられた皿を手に、ちょうどお手洗いで席を立った愛海の席へやってくる。隣から茶色い瞳に映り込みそうなほど近くで見つめられ、目を合わせていられなくて逸らした。
「思い出した! 新野(にいの)さんとこで働いてない?」
「新野さん……新野夕社長ですか?」
その名字には聞き覚えがあった。たずねると、茶色い瞳が嬉しそうに輝く。
「そ、新野デザイン。もしかして照明やってる? あの事務所で見かけたことがあるんだけど」
「いえ、私は税理士事務所で働いていて……その、あんまり言えないんですけどお客さんなんです」
新野デザイン事務所は少人数の会社ながら、社長の新野さんが国内で一、二を争う照明デザイナーで請け負っている仕事は大きいものばかり。
海外からもどんどんと仕事が舞い込んできていて、現状でも利益はかなり出ているし、これからも右肩上がりが期待できる会社だ。
顧客先については秘密厳守。今回ばかりは誤解を解くためにこっそりと答えた。