俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「なんだ、照明じゃないのか。新野さんところで働いている大橋と仲が良くてさ、お互い早く仕事が終わったから飲みに行こうって約束して事務所の前で待ってるときに、えーっと……」
「花坂百音です」
「百音ちゃんね、ありがとう。百音ちゃんを見かけて、事務所の子かなって思ってたんだ」
前のめりだった姿勢を少しだけ戻し、グラスのビールを飲み干した。
新野さんの事務所の大橋さんはきっと若い男性のことだ。
事務所へ行ったとき、物静かな男性がひとりいたのを覚えているし、入力をしている愛海も「大橋さんがかっこいいんだけど、なかなか近づけないんだよね」と零していたのを聞いたことがある。
「私は担当じゃないのであんまり関わらないんですけど……たぶん、ほかの人に頼まれて新野社長の事務所に書類を届けに行ったときですね」
新野デザイン事務所にはちゃんと担当の税理士がついていて、その補助を愛海が行っている。だけど、愛海が手一杯で私に余裕があるときにたまたま手伝いで書類を持っていたことがあった。そのときのことだろう。
「よく、覚えてましたね」
たった一瞬出会った人のことを覚えているだろうか。私なんて、昼間ぶつかった広瀬さんのことも忘れていたくらいなのに。
「百音ちゃん、目立つからね」
同じセリフを今朝、愛海にも言われた気がする。
「そうですか? 普通ですよ。背も高いわけじゃないですし、メイクもそんなに濃いわけじゃないと思うんですけど」
「メイクより顔立ちかな。華やかだけど、しっかりした感じもするし……凛としてるっていうのかな。なんだろう、すごく惹かれた」
私を見かけたときを思い出しているのか、ビールに視線を落とした横顔ははにかんでいる。