俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「じゃあ、本当に休ませてくれただけですか? すみません、わざわざホテルにまで……ありがとうございます」
最後まで、という部分がひっかかりつつもお礼を言うと、広瀬さんは唇に人差し指を当てた。
「いいよ、お礼はもうもらっちゃったから」
「え? ……あっ! き、キス……」
夢の中の出来事だと思ったけれど、意識がなくなる寸前しっかりとキスしたことを思い出す。
「言っておくけど、キスだけで止まるの大変だったんだよ? 百音ちゃん、めっちゃ可愛いし色っぽいし。けど、同意もなく酔ってる子を襲う趣味もないからね。だから、ホントにキス以上のことはしてないから安心して」
私の頭にポンポンと手を置くと、テーブルのそばで財布をゴソゴソすると、電話を切ったあと置いていたスマートフォンをパンツのポケットに入れた。
「キスだけ……って、意外です。広瀬さん、そういうの軽いと思いました」
蘇ってきた記憶をたどれば「休憩がしたい」と口にしたのは私だし、キスが気持ちよくて応え、正直どうなってもいいと半分投げやりにもなっていた。同意したと捕らえられてもおかしくないのに。
「軽いって、平気で女の子とシちゃうと思ったってこと?」
「はい、モテそうですし」
うなずくと、広瀬さんは眉を垂れて肩を落とした。すごく、悲しそうに見える。
「まぁ、よく言われるかな」
悲しそうな顔が一変して、すぐに飲み会のときのような明るさに戻ると、なぜだかすごくホッとした。
「それじゃ、悪いけどさきに出るね。支払いはそこのテーブルに置いてあるので足りると思うから。連絡先も一応、メモ残してる。……俺に会いたくなったら、いつでも連絡してね」
最後は半分おどけたように言うと、手を振ってさっさと部屋から出て行ってしまった。
あっさりしすぎていて、拍子抜けしてしまう。ほとんど意識はなかったとはいえ、一夜をともにしたというのに。
「仕事、かぁ……忙しいんだ」
今日は土曜日。飲み会のときに休みだと言っていたはずなのに。
「ああいうタイプって、こんなに真面目なんだっけ?」
軽そうに見えて、酔った女性にも紳士。適当そうに見えて、仕事には手を抜かない。
たった一度の飲み会で出会った広瀬さんは私のカテゴライズを越えていった。あっさりと帰ってしまった彼はいったいどんな人なのか、無性に気になってしばらく頭から離れなかった。