俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「あの人、ちゃんと家まで送ってくれて紳士だったよ」
「えー、意外。広瀬さんって手慣れてる雰囲気あったから、てっきりそのまま朝まで一緒かと思ったぁ。本当になにもされてないの?」
愛海は眉を寄せて疑いの眼差しを私に向けてきた。その気持ちは、あの広瀬さんしか知らなかったら理解できる。
「ホントになにもないよ。誰でもいいわけじゃないんじゃないかな。仕事も真面目そうだし、ちゃんとしてるのかもね」
とはいえ、ホテルには行ったしキスもした。
出会ったばかりの人とキスをするなんてはじめてだったけれど、まったく嫌な感じがしなかった。むしろ、優しくて柔らかくて、もっとしてほしいとさえ思うほど。
思い出せば体がじわりと熱くなる。
いや、久々のキスだったから、そういう風に感じてしまったのだ。決して広瀬さんが相手だったからじゃない。
頭を軽く振ると、あとから広瀬さんに「家まで送ってもらった」という辻褄を合わせてもらうためにメッセージを忘れずに送ろうと考える。
「それにしても広瀬さん人気高かったなぁ。あと、そのあとに来た上崎さん! 爽やかで、ちょっと奥手そうなところがまた女性のハートをくすぐるというか……」
「あ、上崎さん……」
実はその人のことが気になっていた。昔、似たようなタイプで失敗したとはいえ、やはり見るからに堅実そうなところに惹かれてしまう。
愛海に上崎さんのことを訊こうとしたら、事務所のドアが開いた。
「……おはよう」
入って来たのは私と愛海が苦手としている男性税理士の笹倉さんだった。
「お、おはようございます」
私と愛海が事務所の隅で固まっているのをメガネの奥の瞳でジロリと睨みつけるように見ると、自分の席へ腰を下ろした。
なにか言いたげで、でもなにも言ってこないところが怖い。
「そ、掃除しないとね」
「うん、もう少しではじまるし」
愛海と「怖い」「いつまでたっても慣れない」とアイコンタクトを交わし、私たちは就業前に掃除を終わらせた。