俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「百音、まだ帰らないの?」
一足先にパソコンの電源を落とした愛海が、私のデスクを覗いて声をかけてきた。壁にかかった時計は定時をとうに過ぎ、夜の八時を指そうとしている。
事務所も事務員の人たちはみんな帰り、あとは税理士の先生たちだけになっていた。
「んー……帰りたいんだけど、諸口の入力が終わらなくて。これだけ済ませておきたいんだよね」
ひとつの支払いの中に、様々な内容が含んでいるものを入力していた。途中で終わらすこともできるけれど、できればスッキリ完成させてから帰りたい。
「なるほど。百音はそういうのキッチリさせておきたいもんね。それじゃ、お先に」
「うん、お疲れさま」
愛海を見送ると、すぐにパソコンの画面に向き直る。ここで数字を間違えれば最後に合わなくなり、見直すことになって入力を終えることができない。資料と自分が入力した内容を逐一見ながら手を進めた。
「おさきに失礼します。お疲れさまでした」
気をつけながら入力したからか、間違いがなく終えることができ、愛海からは十五分遅れで事務所を出た。
まだ私と愛海が苦手としている笹倉さんはじめ、税理士の先生たちが数人残っている。笹倉さんは無愛想だけど、それ以外の人はみんな優しく、挨拶をすれば「お疲れさま」と返してくれた。