俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「もうこんな時間かぁ……なにか食べて帰ろうかな」
腕時計を見ると八時半前。今からなにか作って食べるのも遅くなるし面倒だ。こういうとき、実家なら楽だよなと大学卒業までいた父と母がいる家を思い出す。
まだいくつも灯っているオフィスビルの明かりや、店の看板で溢れる街中をぼんやりとしたまま歩き出すと、離れたところから私に小さく頭を下げる男性が見えた。
「えっ、か、上崎さん?」
春風が吹き、その姿を見失いそうになって慌てて手で髪を押さえた。
「こんばんは。田口さんに、花坂さんもこのビルの税理士事務所で一緒に働いているって聞いたんです。その、この前すぐに帰ってしまって、連絡先を聞きそびれてしまったので。人数合わせで参加した会だったので、幹事の方ともあまり親しくなくて……すみません、いきなり」
申し訳なさそうに頭をさげると、うつむいたまま私とは目を合わせようとしない。見るからに女性慣れしていないことが伝わってきて、こちらまで照れくさくなってくる。
「い、いえ。むしろわざわざありがとうございます。お仕事もお忙しいのに、大丈夫だったんですか?」
「この付近の得意先から直帰の予定だったので問題ありません。僕が花坂さんに会いたくて来たんですよ。大丈夫に決まってるじゃないですか。それより、まだいらっしゃってよかったです」
安心したように息をつくと、腕時計に視線を落とした。
「もうこんな時間ですし、食事がまだでしたら一緒にどうですか?」
顔をあげ、目をじっと見つめながら誘ってくれる。どこか必死なように見えて、胸の奥がキュンと高鳴った。
こういうひたむきさに弱いんだよな。