俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
今日は愛海より早く、定時に仕事を終えると事務所を出た。まだあたりには夕陽のオレンジ色が残り、街灯や店の看板のライトが点灯したところ。
家路を急いでいるのか、それともこれから会社へ戻る外回りの人か。忙しない足取りの人が多く、私もその流れに乗るように足早に駅へと向かった。
そういえば、広瀬さんのメッセージに返信してなかった。
信号待ちの間にバッグからスマホを取り出し、既読にする。青に変わってしまったので、再びバッグへ戻そうとすると、電話がかかってきた。画面に表示されているのは、広瀬さんだ。
「も、もしもし」
どういった態度で出ていいかわからず、声がうわずってしまう。
『あ、百音ちゃん? 今大丈夫?』
「大丈夫です。仕事終わって、ちょうど帰るところだったので。すみません、メッセージ返信できなくて」
広瀬さんと話しながら、人波の間を縫うように歩く。
『あ、読んでくれてたんだ。いいよ、気にしないで。それより、今度ご飯行かない?』
「えっ」
思ってもいなかった食事の誘いにドキリとする。昨日、上崎さんからの食事の誘いに乗ってホテルへ連れて行かれそうになったばかりだというのに懲りていない。
『嫌? そう言わずに一回行こうよ』
「い、嫌とは……」
『こういうとき、男なら“無理ならいいよ”って引いたほうがかっこいいんだろうけど……俺、そういうの出来そうにない。百音ちゃんとふたりでもう一回食事行きたいんだ』
引くほうがかっこいいと広瀬さんは言うけれど、私には引かずにストレートに誘ってくるほうがかっこよく思えた。