俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「おはよう」
多くの人が行き交う構内を歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あ、愛海(あみ)」
振り返ると、明るめの髪をひとつにまとめて桜の季節らしいピンク色の春ニットに白のフレアスカートを合わせた同僚の田口(たぐち)愛海がいた。手にしているハイブランドのバッグはこの前買ったばかりらしくピカピカと輝いている。
「おはよう、よく気づいたね」
私みたいに胸元まで伸びたダークブラウンの髪で、ブラウスにジャケットを羽織り、Aラインのスカートを合わせた女性はたくさんいる。よく見つけられたなと感心していると、愛海は得意気に口角をあげた。
「人を見るのは得意だから。それに、百音って目立つんだよね」
「目立つって……後ろ姿が?」
「姿勢がいいからかな。すぐ目に付いたよ」
男性から好かれそうな桃色に色づいた唇を綻ばせ、私の隣に並んだ。
「そう? 背は一六三センチくらいだし、そんな高くないよ」
顔はメイクが薄くても派手だと言われることが多いけれど、スタイルも後ろ姿もたいして目立つところはないと思っていた。
「だから、姿勢だって」
愛海はクスッと笑うと私の肩を軽く叩いた。
税理士事務所で事務員として働いている私たち。大学卒業後から私がいた事務所に、三年前愛海が中途採用でやってきた。
税理士資格を持っている人たちとは無意識に一線を引いてしまうし、事務員同士でも年齢の近い人が少ない中、愛海は同い年で唯一プライベートでも仲がいい同僚になる。