俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「私がモテるって? そんなことないでしょ。飲み会でいいなって思った人は大抵、百音のことを気に入ってるんだから」
雑巾を濡らし、力強くしぼっている愛海の後ろ姿からは、どんな顔で話してくれているのかわからない。声のトーンがいつもより低く、少し落ち着かなかった。
「え、そうだったの? 全然気づかなかった……」
今回もそうだったのだろうか。思えば、飲み会の前に出会った昼休憩のときも、愛海は涼真のことを気に入っていた。たった一瞬だったのに。
「……あの、ごめん。……って、また謝っちゃったけど……その、愛海が気になっていたのに……」
「広瀬さんのこと? 仕方ないよ、広瀬さんが百音を好きになっちゃったんだから。ていうか、謝られるとみじめになるからやめて、ね?」
冗談めかして笑うと、所長のデスクを拭きはじめた。もういつもの愛海に戻っている。ホッと胸を撫で下ろすと、私も雑巾を用意してほかの人のデスクを拭きはじめた。
「それで、今度はいつデートするの?」
「土曜日。まだ、待ち合わせ場所しか決まってなくて、どこに行くかは教えてもらってないんだけど」
「いいじゃん、そういうのワクワクするよね。待ち合わせはどこ? 駅前とか?」
愛海に聞かれるがままに答えて掃除を終えると、就業時間が近づき、多くの人が出勤してきた。
パソコンを起ち上げて頭を仕事モードに切り替えていると、キャビネットの引き出しに入れようとしたスマホが短く震えた。
画面を見ると、通知のポップアップに涼真からのメッセージが表示されている。
【仕事、がんばろう】
そのひと言に、私も気合いが入る。きっと涼真もキラキラの笑顔を封印して真剣な眼差しで仕事をしているはずだ。私も、頑張ろう。
【がんばろう。土曜、楽しみにしてる】
短く返事をすると、今度こそスマホを引き出しに入れて、パソコンに向き直った。