俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「おはようございます」
駅から十分ほど歩いたところにある二十階建てビルの十八階。三室あるフロアの一室が私たちの務めている真淵(まぶち)税理士事務所だ。
一面ガラスでできたドアの真ん中には事務所名が大きく縦書きされていて、そのドアを開けるとシンプルな事務員用のデスクが八個向い合せに並んでいる。その奥に税理士の先生たちのデスクが四個あり、一番奥には大きめの所長のデスクと立派な背もたれと肘掛けがついたイスが鎮座している。
就業三十分前の八時半ではまだ誰も来ておらず、窓のブラインドを調節して太陽を取り込むと、さっそく掃除をはじめることにした。
「笹倉(ささくら)さんって、今日も調査だったっけ?」
所長のデスクを拭きながら、愛海がたずねてくる。山積みになった書類を丁寧に持ち上げて……とまではせず、書類の周りをなぞるように拭いている。仕事以外のことには大雑把な所長は、こんな掃除のされ方をしているとは気づいていない。
「そうだよ。一昨日から行ってるけど不備とかないみたいだし、今日で終わりなんじゃないかな」
顧問先に税務署が調査で入るとき、担当の税理士も立ち会うことになる。税理士が新人だと所長も一緒に行くけれど、笹倉さんは税理士になって十年目なので今回はひとりで立ち会っていた。
「確申終わって忙しいときに調査って、ホントこっちの都合も考えて欲しいよね。ひとり欠けたら結構しんどいというか、調査に行ってる人は業務が止まるからあとが大変なのに」
確定申告が終わると、三月決算の法人の申告が五月なので四月も税理士事務所にとっては忙しい時期になる。
愛海がついたため息に私もうなずいて同意を示した。