俺だけのもの~一途な御曹司のほとばしる独占愛
「うっそ……。どうしよう、この書類渡すの忘れてきちゃった……」
もうすぐ時計の針が定時を差そうとしたころ、愛海が顧客先から戻ると愕然としていた。
「愛海? どうしたの、忘れもの?」
近くにいたので声をかけると、いまにも涙が零れそうな瞳で見上げられる。
「ごめん、百音って今日なんか用事ある?」
「ううん、ないけど……」
「実は、新野デザイン事務所に試算表を届けに行ってきたんだけど、もうひとつ封筒あることを忘れちゃって」
バッグから、真淵税理士事務所の名前がプリントされた茶封筒をチラリと見せてくる。
「いいよ、持って行くよ」
「ホント!? ありがとう! どうしても用事があって……。向こうからの資料は持って帰ってきてるから、渡すだけ。だから、直帰しても大丈夫だから」
どんよりと曇っていた愛海の表情が一気に明るくなった。
「わかった。帰り道だし、気にしないで」
手持ちの仕事も落ち着いているし、定時でもあがれそうだからこれくらいの手助けはお互いさまだ。
愛海から茶封筒を受け取ると、みんなに挨拶をして事務所をあとにした。