Romantic love
第五章 最高にロマンチック
──どうしても会いたい人がいる。
でもそれが誰なのかわからない。
どこで出会ったのか、私にとってその人がどういう存在なのか、全く思い出せない。
顔も声も、それどころか性別も年齢も、何一つわからない。
なのに会いたくてたまらない。
なんて奇妙な話なんだろう。
初めてその、私の中にいる"会いたい誰か"の存在に気づいてから、もう半年以上たった。
大学は夏休みに入って、私は実家には帰らずに、就活とバイトに明け暮れる日々を過ごしている。
実家はそんなに遠くないから、帰る気になればいつでも帰れるし、地元の友達もみんな、今年は帰らないかもと言っていた。
その誰かについては、相変わらず何も思い出せないままだ。
何も覚えてない誰かに会いたいなんて、すごく変だし、やっぱりただの思い込みかも。
何度もそう思おうとしたけど、結局それもできない。
私は見知らぬ相手を想いながら、何でもない日々を過ごしている。