似非王子と欠陥令嬢【番外編】
キャロルは咳払いをしながらまた本をパラパラと捲る。
「あっ後はこれですね。
名前呼びが出来なくてモジモジみたいな。
名前なんて固有名詞ですよ。
誰にだってあるもんじゃないですか。
本を本と呼ぶのと一緒ですよ。
何故照れるのか理解に苦しみます。」
「それはまた初歩の初歩で躓いてるね…。
拗らせに拗らせた恋愛音痴だよねキャロル。」
「馬鹿にしてます?」
「いや、もう既に私はその域は越えたからね。
今じゃ感心してるよ。
ほんと凄いよね。
心底凄いと思ってるよ私は。
恋愛音痴も極めればこの域に到達出来るのかって日々思ってるよ私は。」
「絶対に馬鹿にしてますよね陛下。」
キャロルの苦情にルシウスがよしよしとキャロルの頭を撫でる。
「本当に馬鹿になんてしてないよ。
分からない事を分からないと言ってる人に対して馬鹿になんてしないでしょ?
答えてあげれば良いだけなんだから。」
「まあそうかもしれませんが…。」
「それでも相手が理解出来ないならそれは私の説明する力が不足しているんであって相手が悪いわけじゃないからね。
自分が説明しても相手が理解出来ないならそれは分かるように説明出来ない自分を責めたとて、理解出来ない相手が馬鹿だって言うのは私は間違ってると思うから。」
「…そうですか。」
「私個人の考えだけどね。」
ルシウスはそう言うと優しく微笑む。
キャロルは唸りながら俯いた。
こいつは時々妙に大人びた事を言う。
いや間違いなく大人なのだが。
ハリーがルシウスは心が広いと昔言っていたが事実かもしれない。
すぐ怒るから素直に納得はし難いが。
「うーんそうだね。
まあ手っ取り早くやってみたら良いんじゃない?」
「やってみる?」
「手を繋ぐのは慣れすぎちゃってるしキスは難易度が高過ぎるだろうから…名前呼びしてみるかい?」
「誰の?」
「私の。」
キャロルはポカンとマヌケに口を開く。
ルシウスはクスリと笑ってまたキャロルの頭を撫でた。
「…陛下は陛下じゃないですか。」
「それは敬称でしょ。
…まさか名前覚えてないとかないよね?」
「いやそれはさすがに覚えてますけど。」
「なら呼んでみてよ。」
ルシウスにそう促されキャロルは口を開く。
だが言葉が出て来ない。
何故だ。
何故だか妙に照れ臭い。
「キャロル?」
ルシウスに不思議そうに首を傾げられるがキャロルだって不思議で堪らない。
レオンだってリアムだって平気なのだ。
こいつだって平気なはずなのだ。
本を本と呼ぶのとルシウスをルシウスと呼ぶ事なんて全く同じはずじゃないか。
なのに何故か胸を掻き毟りたくなる程気恥しい。
心臓が不整脈の如く心拍数が上昇するのが分かる。
真冬なのに自分の耳に熱が篭もり赤くなるのが分かった。
何なんだ。
この気持ち悪い感情はなんなんだ。
「…………ル…。」
「うん。」
「……ルシ…。」
「うん。」
「……ルシウ…。」
「うん。」
キャロルが最後の一音を振り絞ろうとしたその瞬間。
無意識にキャロルは自分の鳩尾に拳を叩き込んでいた。
「えぇっ!?」
「…すいません陛下。
不整脈に血圧の上昇、吐き気に腹痛悪寒に頭痛までしてきました。」
「私の名前でそんな事に?
だっ大丈夫かい?」
「大丈夫です。
ですが少々雪だるまを作って来ようと思います。」
「脈絡が全く分からないけれど本当に大丈夫かい?」
「大丈夫です。
行って参ります。」
そう言うとキャロルは塔を上着も着ずに飛び出して行った。
黒髪の隙間から見えた耳が真っ赤になっているのが見えルシウスは一瞬ポカンとした後優しくくすくすと笑う。
それはキャロルの遅過ぎる初恋の予兆であった。
その日塔の横にはやけに完成度の高い聖龍の雪像が出来ていたという。
その雪像はあの筆を折った絵師でさえ唸るほど見事な出来栄えだったと言われている。
「あっ後はこれですね。
名前呼びが出来なくてモジモジみたいな。
名前なんて固有名詞ですよ。
誰にだってあるもんじゃないですか。
本を本と呼ぶのと一緒ですよ。
何故照れるのか理解に苦しみます。」
「それはまた初歩の初歩で躓いてるね…。
拗らせに拗らせた恋愛音痴だよねキャロル。」
「馬鹿にしてます?」
「いや、もう既に私はその域は越えたからね。
今じゃ感心してるよ。
ほんと凄いよね。
心底凄いと思ってるよ私は。
恋愛音痴も極めればこの域に到達出来るのかって日々思ってるよ私は。」
「絶対に馬鹿にしてますよね陛下。」
キャロルの苦情にルシウスがよしよしとキャロルの頭を撫でる。
「本当に馬鹿になんてしてないよ。
分からない事を分からないと言ってる人に対して馬鹿になんてしないでしょ?
答えてあげれば良いだけなんだから。」
「まあそうかもしれませんが…。」
「それでも相手が理解出来ないならそれは私の説明する力が不足しているんであって相手が悪いわけじゃないからね。
自分が説明しても相手が理解出来ないならそれは分かるように説明出来ない自分を責めたとて、理解出来ない相手が馬鹿だって言うのは私は間違ってると思うから。」
「…そうですか。」
「私個人の考えだけどね。」
ルシウスはそう言うと優しく微笑む。
キャロルは唸りながら俯いた。
こいつは時々妙に大人びた事を言う。
いや間違いなく大人なのだが。
ハリーがルシウスは心が広いと昔言っていたが事実かもしれない。
すぐ怒るから素直に納得はし難いが。
「うーんそうだね。
まあ手っ取り早くやってみたら良いんじゃない?」
「やってみる?」
「手を繋ぐのは慣れすぎちゃってるしキスは難易度が高過ぎるだろうから…名前呼びしてみるかい?」
「誰の?」
「私の。」
キャロルはポカンとマヌケに口を開く。
ルシウスはクスリと笑ってまたキャロルの頭を撫でた。
「…陛下は陛下じゃないですか。」
「それは敬称でしょ。
…まさか名前覚えてないとかないよね?」
「いやそれはさすがに覚えてますけど。」
「なら呼んでみてよ。」
ルシウスにそう促されキャロルは口を開く。
だが言葉が出て来ない。
何故だ。
何故だか妙に照れ臭い。
「キャロル?」
ルシウスに不思議そうに首を傾げられるがキャロルだって不思議で堪らない。
レオンだってリアムだって平気なのだ。
こいつだって平気なはずなのだ。
本を本と呼ぶのとルシウスをルシウスと呼ぶ事なんて全く同じはずじゃないか。
なのに何故か胸を掻き毟りたくなる程気恥しい。
心臓が不整脈の如く心拍数が上昇するのが分かる。
真冬なのに自分の耳に熱が篭もり赤くなるのが分かった。
何なんだ。
この気持ち悪い感情はなんなんだ。
「…………ル…。」
「うん。」
「……ルシ…。」
「うん。」
「……ルシウ…。」
「うん。」
キャロルが最後の一音を振り絞ろうとしたその瞬間。
無意識にキャロルは自分の鳩尾に拳を叩き込んでいた。
「えぇっ!?」
「…すいません陛下。
不整脈に血圧の上昇、吐き気に腹痛悪寒に頭痛までしてきました。」
「私の名前でそんな事に?
だっ大丈夫かい?」
「大丈夫です。
ですが少々雪だるまを作って来ようと思います。」
「脈絡が全く分からないけれど本当に大丈夫かい?」
「大丈夫です。
行って参ります。」
そう言うとキャロルは塔を上着も着ずに飛び出して行った。
黒髪の隙間から見えた耳が真っ赤になっているのが見えルシウスは一瞬ポカンとした後優しくくすくすと笑う。
それはキャロルの遅過ぎる初恋の予兆であった。
その日塔の横にはやけに完成度の高い聖龍の雪像が出来ていたという。
その雪像はあの筆を折った絵師でさえ唸るほど見事な出来栄えだったと言われている。