似非王子と欠陥令嬢【番外編】
「あっ御機嫌よう陛下。」

「…久しぶりだねキャロル。」

2週間後、アリーシュ領から帰って来たキャロルの元にこれでもかと言わんばかりの不機嫌なオーラを纏ったルシウスがやって来た。

キャロルはタオルで髪をぐしぐしと拭きながら書類の束を渡す。

「3代前のアリーシュ領の領主がバヌツスの巫女の一族の殺害を命じた証拠が出てきました。
まあ150年前の事ですので今更罰するわけにもいきませんが、とりあえずバヌツスの復興の際にかかった国庫への借金の返済をアリーシュ領領主に肩代わりさせる方向に致しましたが宜しいですか?」

「…あぁ、うん。」

「あとついでにアリーシュ領内で疫病が流行っておりましたのでその治療薬と王都から医師の派遣を命じておきました。
承認印だけお願い致します。」

「……うん。」

ルシウスがチラリと羊皮紙に目を落とす。

そう、こやつは仕事は出来るのだ仕事は。

キャロルは話は終わったとばかりに事務机に向かい何かの種をすり鉢ですり潰し始めている。

ルシウスの寝室の隣に王妃としての寝室を用意してあるがキャロルは薬の臭いが部屋に着くからと基本塔で過ごしていた。

そのまま寝落ちして帰って来ない事も1度や2度ではない。

いやむしろ王妃の寝室を使った回数が1度あるかないかだ。

国賓が来たり夜会が行われる時に着替えに行く位。

所謂衣装部屋になってしまっている。

「…えっとキャロル。
私が何を言いたいか分かるよね?」

「ん?
報告書に不備がありましたか?」

「いや報告書は大丈夫。
相変わらず報告書だけは完璧だよ。」

「そうですか。」

キャロルはすり潰した粉に薬草を混ぜている。

手を止める様子はない。

ルシウスが不機嫌なのはキャロルにとって毎度の事だ。

むしろ婚姻してから機嫌が良かった事の方が少ない。

そんなに嫌ならキャロルを王妃になどしなければ良かったのにとキャロルは手を動かしながら考える。

キャロルはそう言えば…と以前から考えていた事をルシウスに伝えようと振り返った。

不機嫌そうに藍色の瞳を歪めたルシウスと目が合う。

「陛下、私ずっと考えていたのですが。」

「ん?
何をだい?」

「隣国では側妃という制度があるのはご存知ですか?」

ピシリ…と部屋の空気が氷点下になる音がした。
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