似非王子と欠陥令嬢【番外編】
「……知ってたら…何?」

「我が国では王妃との離縁は認められないじゃないですか?
ですから側妃の制度を取り入れるのはどうかと…ヒェッ?」

その為の法案改正について考えてみたのだがと渡そうとした羊皮紙を持ったままキャロルは小さく悲鳴を上げた。

魔王だ。

この10年で最大の魔王が降臨している。

キャロルに会う度に不機嫌になる為お飾りの王妃にして貰いルシウスには好みの側妃でも貰って頂こうと思っただけなのに。

キャロルの考えた法案の内容なら魔物でも側妃に出来るというルシウスにとっては喜ばしいはずの物なのに。

キレてる。

こいつ絶対ブチ切れてる。

キャロルはヤバいとジリジリと扉の方へ足を向けた。

逃げるが勝ちという言葉はこの場において非常に正しいであろう。

ルシウスの顔が無表情になっている。

普段笑っている為無表情の威圧感がヤバい。

キャロルが冷や汗をかきながら扉に近付こうとするとルシウスが扉にもたれかかった。

読まれていたらしい。

退路を絶たれてしまった。

「…へぇ、どういうつもりか聞かせてくれる?」

「いや、あの、私と会う度に不機嫌になられるのでいっそ好みの魔物でも貰って頂こうかな、なんて…。」

「…ふぅん。
そこで何で不機嫌なのかとは考えないんだキャロルは。
どうせ『不機嫌だめんどくせえな逃げよ』としかならないもんねキャロルは。」

図星である。

不機嫌な理由を聞いたら余計に面倒臭い事になるだろうと考えていた事すら読まれている。

目を彷徨わせたキャロルを見てふぅとルシウスは息を吐いた。

「…少し甘やかし過ぎたかもしれないね。」

「い、いやそんな事は。」

「聞いただけで逃げるだろうと思って閨教育の講師も付けないであげたのが間違いだったかな。」

「ねっねや?」

ジリジリと後退するキャロルに合わせてルシウスもジリジリと近付いて来る。

「キャロルがそう言うつもりなら私も容赦しないよ?」

ルシウスがキャロルの二の腕を掴む。

「ちょっでっ殿下落ち着いて…。」

「落ち着くのはキャロルでしょ。
呼び方戻ってるよ。」

「あっそうでした。
陛下落ち着きましょう。
暴力は良くないです暴力は。」

「暴力は振るわないよ。
痛いかもしれないけどね。」

キャロルはゴクリと唾を飲み込んだ。

痛いのは嫌だ痛いのは。

ルシウスの顔が近付いて来る。

このパターンは知っている。

噛み付かれるやつだ。

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