例えば、これが恋だとしたら
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「うっぜ・・・」 突然の雨に空を見上げた。
受験も終わり、もう午後の授業もない。
「はぁ・・・傘・・・ねーし」
置き傘をパクるしかないな。
視線を傘置き場にやるが、俺の視線は傘に届かなかった。
「ダメだよ?悪いことしちゃ」
俺と傘置き場の間に滑り込んできた女が居たからだ。
「お前、何?」
彼女はクスっと笑い
「私近くのコンビニ寄って帰るんだけど?」
「だから・・・何?」
ジロっと見る俺の横を、トトンとステップをして前に立つ。
「ほーら!はいりなよ!」
笑顔で俺の手を引く。俺はそれを払いのけた。
「なんでだよ」
大体、コンビニに寄ると遠回りになるのだ。
「傘・・・買いに行かない?」
俺は空を見上げる。止みそうになかった。
無視して傘をパクればいいのだが、何故かそれが出来なかった。
俺は右肩が濡れていくのを感じながら言う。
「お前さ、なんで?」
「何が~?」
「他人の俺に何で干渉してくる、理由がないだろ」
「人の傘持っていこうとしたでしょっ」
「はっ・・・してねぇよ」
「またまたぁ、わかるよ」
彼女はクスっと笑ってこっちを覗く。
「つか・・・お前、誰?」
俺は彼女を知らなかったのだ。顔も見たことがない。いや、見たことがあっても覚えてないだけだ。
「私は音無。隣のクラスだよ、キミは高野君だよね」
「・・・なんで知ってんの?」
「キミは有名なんだよ~、みんな怖いって言ってるもん」
「んだよ、それ・・・うっぜ」
俺がつぶやくと、音無がこっちを見た。
「ほら!そういう態度が怖いんだよ?わかる?」
ニコニコとしながら言ってくる。
「お前うぜぇな、何がそんなに楽しいんだ」
「逆に何がそんなにつまらないんだー!」
ズビっと指を指して言ってきた。 こいつ・・・頭おかしいのか?
俺は最初そう思ったのだが、コイツの指が震えてることに気付いた。
あれほど振っていた雨も、コンビニに付く頃には止んでいた。
「ちっ・・・んだよそれ」
一人愚痴る。
「傘いらなかったね」
えへへ、と笑ってくる。
やっぱり少し震えている。気付いてしまったから、意識がそこにいってしまう。
「お前さ・・・俺が怖いか?」
「うん、少しね」
じゃぁなんでこんなことしてんだよ。周りの奴らみたいに、遠目で俺の事見て、避けてればいいじゃないか。
こんな奴は初めてだった。怖がられてるのは知っている。なのに、こうまで俺に干渉する奴は今まで居なかった。何故・・・
「もうすぐ卒業でしょ?」
さっきまでとは違う、静かな笑顔でしゃべる。
「それが・・・?」
だからね――――。
「あ!こんな時間・・・今日早く帰んなきゃいけなかったんだ!」
音無はそういって俺の横を駆け出す。
その瞬間、空耳のように聞こえた言葉。
――――好きだったの。
音無が横断歩道を渡り、信号が赤になる。
追えなかった・・・ 。
俺はその日、音無が言った言葉がずっと頭から離れなかった。 好きだった。何が。俺を?まさか。じゃぁなんだ。
これの繰り返しだ。
うっぜ・・・なんだよこれ・・・ッ!
――――昨日の事をまだ引きずっている。
昨日のこと・・・聞かなきゃいけないよな・・・
今日が終われば、卒業式まで学校に来なくていい。
あぁ、嫌だな。俺は空を仰いだ。
「ぁ・・・」
神は残酷だと思う。それともお節介なんだろうか。
居るんだろ。俺が目線を下げると。
「おはよ!」
「ふぅ・・・朝から元気だな」
「高野君はいつも元気ないねー?」
「つか・・・お前、昨日・・・」
俺が昨日の事を聞こうとしたときだった。
「おっとぉ!高野と音無さん朝から一緒かぁ!?」
「あぁ?」
俺といつもツルんでる宮野だ。
「昨日仲良く傘さしてたもんな!このこのー!教室から見えてたんだぞ~~!」
俺にぶつかってくる。
「うっぜ・・・そんなんじゃねーよ、余計なお節介されただけだ!うぜっつの!」
やってしまった。ハっとした時には、遅かった。
「そ、そうだよね・・・私が無理に誘ったんだよ」
「お、おい。音無・・・」
音無は走っていってしまった。
俺は宮野を睨んだが、宮野は音無が去った方を見ていた。
「音無さん、泣いてたな」
ぽつりと宮野が言う。
泣いてた・・・?まさか。 宮野にキレそうになっていたが、言ったのは自分だ。コイツに罪はない。
「高野さ。お前モテるんだぞ?知ってたか?」
「いきなり・・・なんだよ」
「別に?なーんで、モテる高野君が避けられてんだろうなぁ。かっこよすぎるのかなぁ」
「なんだよお前、キモいな」
「あぁあ、うちの学校には音無さんみたいな純粋な子居ないからなぁ」
などと言って、宮野は行ってしまった。
授業が終わり、休み時間になる度に俺は音無を探した。
しかし、音無の姿まるで見当たらない。
くそ・・・完全に避けやがって・・・。
ってか、何で俺こんなに探してんだよ。 馬鹿みてぇ。
結局下校時間になっても見つけることができなかった。
・・・帰るか・・・
「あれ?高野帰るの?音無さん見つかった?」
「いや・・・もういいんだ。宮野、一緒に帰るか?」
そう言うと、宮野は神妙な顔つきになった。
「お前・・・ちょっと来いよ」
「・・・何?」
宮野は俺の腕を引っ張って、歩いていく。
連れてこられたのは体育館の倉庫だった。
「なんだ、バスケでもするのか?鍵かかってるだろ」
「高野さ、何でお前が怖がられてるかわかるか?」
音無が言ってたな。態度がどうのこのって・・・・。しかし俺は惚ける。
「かっこよすぎるからだろ?」
俺が答えている間に宮野が鍵を外して倉庫を開ける。
・・・!
「やっぱりか・・・これが怖がられてる理由だ」
宮野が俺に見えるように、半身になる。
そこには着ている体育着から制服までズタズタにされた音無がいた。
なんだよこれ・・・
「うちのイカれた女子の仕業だよ」
はぁ。とため息をついて宮野はつぶやく。
「音無!音無!大丈夫か!」
俺は駆け寄って音無を抱き起こした。
「高野君・・・?なんで・・・」
「なんだよこれ・・・!」
「だから、お前モテるって言っただろ」
「それがなんだよ!なんで音無がこんなことになってんだよ!」
「影でおまえに好意を示した女子がこうなってたんだよ。お前には熱狂的なファンが居て、だからお前はモテるのに避けられてたんだよ!」
「宮野・・・何故言わなかった」
音無を抱いている手に力がこもる。
「私がね・・・宮野君に言わないでって言ったの・・・」
力なく、照れながら笑う音無。なんで笑っていられるんだよ・・・ッ。
「俺は、音無さんに相談されたんだよ。お前のこと」
一呼吸おいて、宮野は真実を告げた。
「お前がこの事態を知らない事を伝えたら・・・音無さんが、きっとそれを知ったら私を遠ざけるから。言わないでってな・・・高野君はやさしいから。ってな」
「私は・・・それでも想いつたえたくて・・・振られちゃったけど 」
音無の目から涙がこぼれる。俺のせいでこんな・・・俺のせい・・・で・・・。
「俺がやさしい・・?お前・・・俺の何を知ってんだよ!」
「知ってるよ・・・いっぱい・・・」
儚げな笑顔で音無は笑う。
「何も知らねーよ!ずっと探してたんだぞ、何もわかってねーよ・・・お前・・・」
今の俺の中は、罪悪感が支配していた。
この状況は兎に角俺のせいで起こったことだ。
自分は知らなかったとはいえ、音無がこんな風になっているのは俺のせいだ。
俺は音無を抱きしめて つぶやく。俺は震えていた。
「ごめんな・・・音無・・・」
「あはは、うれしぃな。ちょっと痛いけど、抱きしめられてるよ、覚悟してよかった」
こんな状況でも笑顔の音無を見て、罪悪感の中から何かが弾けた。
「音無。俺は、おまえが好きだ・・・」
「ぇ・・・?」
自分でも今何を言ったのか一瞬わからなかった。
一瞬だが罪悪感の中で、自分の腕の中にいる音無に愛おしさを感じたんだ。
例えば・・・これが恋だとしたら・・・罪悪感なんてなかったんだ。いや、多少はあっただろうけど・・・俺が感じていたのは音無を守れなかった自分への苛立ちだ。
「俺は、お前が好きなんだ お前は何もわかってねぇ」
「そんな・・・だって・・・」
音無が目を見開く。後から宮野の声が聞こえた。
「高野、とりあえず体育着持って来たぞ。おまえの」
「体育着?」
宮野は俺の体育着を持っていた。
「音無さん。そんな格好じゃ帰れないだろ?」
俺は改めて音無の格好を。音無は自分の格好を見た。
ズタズタにされた服は、俺が抱き起こした所為でものすごくはだけていた。
・・・はは、これは罪悪感だな・・・
「は、恥ずかしいね・・・あはは」
「俺はラッキーだけどね。はい、体育着。こんなのしかねーけど」
「おい、俺の体育着をこんなのとか言うなよ」
「いや、洗ってないだろ?」
・・・洗ってなかった。認めざるを得ない。
「わ、私は気にしないよ。あはは、高野君の匂いがする」
その日、音無は俺の体育着を着て帰った。
それを見送る。次に会うのは卒業式だ。
「宮野さ、誰がやったかわかるか?」
「わかってたら、何をするんだ?殴る?蹴る?同じことをする?」
「・・・いいから言えよ」
「言わないね、そんなことして音無さんが喜ぶのか?」
「喜ぶわけないな・・・わかってるよ、おまえが思ってるようなことはしねぇよ
「・・・ほんとか?」
「信用ねぇなぁ。俺は優しいやつって音無が言ってただろ?」
「じゃぁ教えてやるよ、俺もあんまりいい気分じゃねーからなぁ」
俺は音無を悲しませない事を誓って、犯人を聞いた。
――――卒業式当日。
俺は体育着を受け取りながら、ちらっと自分のクラスを見る。まさか、クラスメイトだったとはな・・・
音無に危害がないまま、卒業式が終わり在校生に送り出される。
卒業生はこのまま解散になるから外へ出た。これから、ボタンやらなんやらの取り合いが始まったりする。
俺には関係がないことだ。
俺は音無の手を取って、引っ張る。
「うわっ・・・何?」
「いいからこいよ」
音無を貶めた張本人。そいつを目の前に。
「よう、お互い卒業だなぁ」
「!?高野・・・」
「・・・高野君・・どうして?」
かなり不安げな顔をする音無。
「おまえだろ?音無傷つけたの」
「し、知らないわよ。卒業なのに変な言いがかりやめてよ」
「俺は知ってるんだよ」
俺は一歩前にでる。それに反応してそいつはビクっと震えた。
「やめてよ・・・こんなの・・・」
音無は俺を引っ張った。 何をすると思ってんだろうか。
しかし、俺は逆に音無を引っ張って――――。
!!!
――――そいつの目の前で音無にキスをしてやった。
「ありがとよ、お前のおかげで大事なもの見つけたわ」
音無はポカーンとしている。耳まで真っ赤だ。
見せ付けられたそいつは、唇をかみ締めていた。
「じゃ、お互い良い高校生活を」
俺はそいつに背を向けて、音無と一緒に在校生の波に消えた。
「うっぜ・・・」 突然の雨に空を見上げた。
受験も終わり、もう午後の授業もない。
「はぁ・・・傘・・・ねーし」
置き傘をパクるしかないな。
視線を傘置き場にやるが、俺の視線は傘に届かなかった。
「ダメだよ?悪いことしちゃ」
俺と傘置き場の間に滑り込んできた女が居たからだ。
「お前、何?」
彼女はクスっと笑い
「私近くのコンビニ寄って帰るんだけど?」
「だから・・・何?」
ジロっと見る俺の横を、トトンとステップをして前に立つ。
「ほーら!はいりなよ!」
笑顔で俺の手を引く。俺はそれを払いのけた。
「なんでだよ」
大体、コンビニに寄ると遠回りになるのだ。
「傘・・・買いに行かない?」
俺は空を見上げる。止みそうになかった。
無視して傘をパクればいいのだが、何故かそれが出来なかった。
俺は右肩が濡れていくのを感じながら言う。
「お前さ、なんで?」
「何が~?」
「他人の俺に何で干渉してくる、理由がないだろ」
「人の傘持っていこうとしたでしょっ」
「はっ・・・してねぇよ」
「またまたぁ、わかるよ」
彼女はクスっと笑ってこっちを覗く。
「つか・・・お前、誰?」
俺は彼女を知らなかったのだ。顔も見たことがない。いや、見たことがあっても覚えてないだけだ。
「私は音無。隣のクラスだよ、キミは高野君だよね」
「・・・なんで知ってんの?」
「キミは有名なんだよ~、みんな怖いって言ってるもん」
「んだよ、それ・・・うっぜ」
俺がつぶやくと、音無がこっちを見た。
「ほら!そういう態度が怖いんだよ?わかる?」
ニコニコとしながら言ってくる。
「お前うぜぇな、何がそんなに楽しいんだ」
「逆に何がそんなにつまらないんだー!」
ズビっと指を指して言ってきた。 こいつ・・・頭おかしいのか?
俺は最初そう思ったのだが、コイツの指が震えてることに気付いた。
あれほど振っていた雨も、コンビニに付く頃には止んでいた。
「ちっ・・・んだよそれ」
一人愚痴る。
「傘いらなかったね」
えへへ、と笑ってくる。
やっぱり少し震えている。気付いてしまったから、意識がそこにいってしまう。
「お前さ・・・俺が怖いか?」
「うん、少しね」
じゃぁなんでこんなことしてんだよ。周りの奴らみたいに、遠目で俺の事見て、避けてればいいじゃないか。
こんな奴は初めてだった。怖がられてるのは知っている。なのに、こうまで俺に干渉する奴は今まで居なかった。何故・・・
「もうすぐ卒業でしょ?」
さっきまでとは違う、静かな笑顔でしゃべる。
「それが・・・?」
だからね――――。
「あ!こんな時間・・・今日早く帰んなきゃいけなかったんだ!」
音無はそういって俺の横を駆け出す。
その瞬間、空耳のように聞こえた言葉。
――――好きだったの。
音無が横断歩道を渡り、信号が赤になる。
追えなかった・・・ 。
俺はその日、音無が言った言葉がずっと頭から離れなかった。 好きだった。何が。俺を?まさか。じゃぁなんだ。
これの繰り返しだ。
うっぜ・・・なんだよこれ・・・ッ!
――――昨日の事をまだ引きずっている。
昨日のこと・・・聞かなきゃいけないよな・・・
今日が終われば、卒業式まで学校に来なくていい。
あぁ、嫌だな。俺は空を仰いだ。
「ぁ・・・」
神は残酷だと思う。それともお節介なんだろうか。
居るんだろ。俺が目線を下げると。
「おはよ!」
「ふぅ・・・朝から元気だな」
「高野君はいつも元気ないねー?」
「つか・・・お前、昨日・・・」
俺が昨日の事を聞こうとしたときだった。
「おっとぉ!高野と音無さん朝から一緒かぁ!?」
「あぁ?」
俺といつもツルんでる宮野だ。
「昨日仲良く傘さしてたもんな!このこのー!教室から見えてたんだぞ~~!」
俺にぶつかってくる。
「うっぜ・・・そんなんじゃねーよ、余計なお節介されただけだ!うぜっつの!」
やってしまった。ハっとした時には、遅かった。
「そ、そうだよね・・・私が無理に誘ったんだよ」
「お、おい。音無・・・」
音無は走っていってしまった。
俺は宮野を睨んだが、宮野は音無が去った方を見ていた。
「音無さん、泣いてたな」
ぽつりと宮野が言う。
泣いてた・・・?まさか。 宮野にキレそうになっていたが、言ったのは自分だ。コイツに罪はない。
「高野さ。お前モテるんだぞ?知ってたか?」
「いきなり・・・なんだよ」
「別に?なーんで、モテる高野君が避けられてんだろうなぁ。かっこよすぎるのかなぁ」
「なんだよお前、キモいな」
「あぁあ、うちの学校には音無さんみたいな純粋な子居ないからなぁ」
などと言って、宮野は行ってしまった。
授業が終わり、休み時間になる度に俺は音無を探した。
しかし、音無の姿まるで見当たらない。
くそ・・・完全に避けやがって・・・。
ってか、何で俺こんなに探してんだよ。 馬鹿みてぇ。
結局下校時間になっても見つけることができなかった。
・・・帰るか・・・
「あれ?高野帰るの?音無さん見つかった?」
「いや・・・もういいんだ。宮野、一緒に帰るか?」
そう言うと、宮野は神妙な顔つきになった。
「お前・・・ちょっと来いよ」
「・・・何?」
宮野は俺の腕を引っ張って、歩いていく。
連れてこられたのは体育館の倉庫だった。
「なんだ、バスケでもするのか?鍵かかってるだろ」
「高野さ、何でお前が怖がられてるかわかるか?」
音無が言ってたな。態度がどうのこのって・・・・。しかし俺は惚ける。
「かっこよすぎるからだろ?」
俺が答えている間に宮野が鍵を外して倉庫を開ける。
・・・!
「やっぱりか・・・これが怖がられてる理由だ」
宮野が俺に見えるように、半身になる。
そこには着ている体育着から制服までズタズタにされた音無がいた。
なんだよこれ・・・
「うちのイカれた女子の仕業だよ」
はぁ。とため息をついて宮野はつぶやく。
「音無!音無!大丈夫か!」
俺は駆け寄って音無を抱き起こした。
「高野君・・・?なんで・・・」
「なんだよこれ・・・!」
「だから、お前モテるって言っただろ」
「それがなんだよ!なんで音無がこんなことになってんだよ!」
「影でおまえに好意を示した女子がこうなってたんだよ。お前には熱狂的なファンが居て、だからお前はモテるのに避けられてたんだよ!」
「宮野・・・何故言わなかった」
音無を抱いている手に力がこもる。
「私がね・・・宮野君に言わないでって言ったの・・・」
力なく、照れながら笑う音無。なんで笑っていられるんだよ・・・ッ。
「俺は、音無さんに相談されたんだよ。お前のこと」
一呼吸おいて、宮野は真実を告げた。
「お前がこの事態を知らない事を伝えたら・・・音無さんが、きっとそれを知ったら私を遠ざけるから。言わないでってな・・・高野君はやさしいから。ってな」
「私は・・・それでも想いつたえたくて・・・振られちゃったけど 」
音無の目から涙がこぼれる。俺のせいでこんな・・・俺のせい・・・で・・・。
「俺がやさしい・・?お前・・・俺の何を知ってんだよ!」
「知ってるよ・・・いっぱい・・・」
儚げな笑顔で音無は笑う。
「何も知らねーよ!ずっと探してたんだぞ、何もわかってねーよ・・・お前・・・」
今の俺の中は、罪悪感が支配していた。
この状況は兎に角俺のせいで起こったことだ。
自分は知らなかったとはいえ、音無がこんな風になっているのは俺のせいだ。
俺は音無を抱きしめて つぶやく。俺は震えていた。
「ごめんな・・・音無・・・」
「あはは、うれしぃな。ちょっと痛いけど、抱きしめられてるよ、覚悟してよかった」
こんな状況でも笑顔の音無を見て、罪悪感の中から何かが弾けた。
「音無。俺は、おまえが好きだ・・・」
「ぇ・・・?」
自分でも今何を言ったのか一瞬わからなかった。
一瞬だが罪悪感の中で、自分の腕の中にいる音無に愛おしさを感じたんだ。
例えば・・・これが恋だとしたら・・・罪悪感なんてなかったんだ。いや、多少はあっただろうけど・・・俺が感じていたのは音無を守れなかった自分への苛立ちだ。
「俺は、お前が好きなんだ お前は何もわかってねぇ」
「そんな・・・だって・・・」
音無が目を見開く。後から宮野の声が聞こえた。
「高野、とりあえず体育着持って来たぞ。おまえの」
「体育着?」
宮野は俺の体育着を持っていた。
「音無さん。そんな格好じゃ帰れないだろ?」
俺は改めて音無の格好を。音無は自分の格好を見た。
ズタズタにされた服は、俺が抱き起こした所為でものすごくはだけていた。
・・・はは、これは罪悪感だな・・・
「は、恥ずかしいね・・・あはは」
「俺はラッキーだけどね。はい、体育着。こんなのしかねーけど」
「おい、俺の体育着をこんなのとか言うなよ」
「いや、洗ってないだろ?」
・・・洗ってなかった。認めざるを得ない。
「わ、私は気にしないよ。あはは、高野君の匂いがする」
その日、音無は俺の体育着を着て帰った。
それを見送る。次に会うのは卒業式だ。
「宮野さ、誰がやったかわかるか?」
「わかってたら、何をするんだ?殴る?蹴る?同じことをする?」
「・・・いいから言えよ」
「言わないね、そんなことして音無さんが喜ぶのか?」
「喜ぶわけないな・・・わかってるよ、おまえが思ってるようなことはしねぇよ
「・・・ほんとか?」
「信用ねぇなぁ。俺は優しいやつって音無が言ってただろ?」
「じゃぁ教えてやるよ、俺もあんまりいい気分じゃねーからなぁ」
俺は音無を悲しませない事を誓って、犯人を聞いた。
――――卒業式当日。
俺は体育着を受け取りながら、ちらっと自分のクラスを見る。まさか、クラスメイトだったとはな・・・
音無に危害がないまま、卒業式が終わり在校生に送り出される。
卒業生はこのまま解散になるから外へ出た。これから、ボタンやらなんやらの取り合いが始まったりする。
俺には関係がないことだ。
俺は音無の手を取って、引っ張る。
「うわっ・・・何?」
「いいからこいよ」
音無を貶めた張本人。そいつを目の前に。
「よう、お互い卒業だなぁ」
「!?高野・・・」
「・・・高野君・・どうして?」
かなり不安げな顔をする音無。
「おまえだろ?音無傷つけたの」
「し、知らないわよ。卒業なのに変な言いがかりやめてよ」
「俺は知ってるんだよ」
俺は一歩前にでる。それに反応してそいつはビクっと震えた。
「やめてよ・・・こんなの・・・」
音無は俺を引っ張った。 何をすると思ってんだろうか。
しかし、俺は逆に音無を引っ張って――――。
!!!
――――そいつの目の前で音無にキスをしてやった。
「ありがとよ、お前のおかげで大事なもの見つけたわ」
音無はポカーンとしている。耳まで真っ赤だ。
見せ付けられたそいつは、唇をかみ締めていた。
「じゃ、お互い良い高校生活を」
俺はそいつに背を向けて、音無と一緒に在校生の波に消えた。